「安倍晋三です。朝早くにすみません。ブエノスアイレスより速報です」——昨年9月8日午前5時過ぎ、首相官邸のLINEアカウントを通じて東京五輪決定の報が届けられた。現在「友だち」数320万人を超える同アカウントは速報性のある新たなメディアとして政府広報の重要な一角になりつつある。政府の情報発信におけるインターネットやSNSに対する姿勢について、内閣官房の担当者に聞いた。
首相官邸が運営するオンラインでの情報発信ツールは、軸となる公式Webサイトに加え、LINE、Facebook、Twitter、mixi、YouTubeの5サービス。サイトの更新情報や写真、安倍首相からの言葉など、それぞれのメディア特性に合わせて随時配信している。
官邸がネット活用に積極的に取り組むようになったきっかけの大きな1つが2011年の東日本大震災。停電した地域も多く、テレビや新聞での報道だけでは限界がある中、政府の発信する情報が個人のTwitterやFacebookで拡散された。緊急時であってもより重要な情報を迅速に伝えられるツールとして、SNSの意義は大きいとみている。
LINEアカウントは2012年の10月にスタート。今では最多の320万人以上の読者を抱える。ほかの情報発信チャンネルに比べて若年層が多いのが特徴だ。一般的な公務に関する情報はもちろん、熱中症対策の呼びかけや留学プログラム、東北でのボランティアの案内なども配信している。
一方、Facebookは安倍首相の動向を中心に発信しており、首相自身が投稿することも多い。ストレートにニュースを伝えるというより、首相としての考え方や取り組みを伝える面が強いという。Twitterは首相の動きやWebサイトの更新情報を発信する通常版(通称・青)、災害情報に特化した緊急版(通称・赤)の2つのアカウントを展開。RT(リツイート)を用いて重要な情報をいち早く拡散できる場所だ。
SNS活用の一番の魅力はリアルタイム性。五輪開催決定といった特別なイベントでのコメントのほか、各種災害情報や北朝鮮からミサイルが発射された旨を知らせる速報などを、プッシュ通知やRTなど従来のメディアとは異なる形で届けている。
中心となる官邸の公式Webサイトでの情報発信は公務や外遊の様子を写真を交えて紹介しており、毎日十数件の記事を更新。検索流入だけでなくSNSからの流入も徐々に目立ってきているという。
SNSを活用することで、公式サイトに情報を掲載してアクセスを待つ、探してもらうという受動的な動線だけでなく、リアルタイムに知ってもらうことが可能になったという。官邸Webサイトの公式記録として残すという意味に加え、情報発信の土台やハブとしても捉えられているようだ。テレビや新聞では時間や紙面の制限で取り上げることが難しい詳細な内容や、話題になりにくいトピックもネットを通して発信することで、関心がある人に届けられる手応えも感じているという。
ネットでの発信は良いことだけでなく、苛烈な批判が寄せられたり炎上に巻き込まれるリスクもある。6月に内閣府が開設した「女性が輝く社会」の実現を掲げたブログ「SHINE!すべての女性が、輝く日本へ」は、本来の意図とは異なる部分でもネットユーザーの間で話題を集めた。担当者は「至極真面目に取り組んでいたので予想もしなかった反応」としつつ、「どんな形であれ取り組みを知ってもらう入り口となった」と振り返る。
いま注目しているツールは動画だ。昨年12月にはユネスコ無形文化遺産に「和食」が登録されたことを受け、LINEを通じて「世界の人たちにおすすめしたい和食、食文化」の写真を募集。何気ない食卓の様子やお弁当、正月のおせち料理など、寄せられた写真の一部を安倍首相の英訳付きコメントとともにYouTubeで配信した。世界に発信しやすく、視覚に訴えるものも多い画像や動画のパワーをより発揮する方法を考えていきたいとしている。
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