著者プロフィール:松岡功(まつおか・いさお)
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。
主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。ITmedia エンタープライズでも「Weekly Memo」を連載中。
「BYOD(Bring Your Own Device)」──すでにある私物デバイスを業務でも使う利用形態が広がってきている。ただ、その広がりはまだゆるやかで、そのルールも、私たちビジネスパーソン個人が理解するほどきちんと整備されているわけでない。
キーマンズネットが調査した「業務用スマートフォンの導入状況(2014年)」によると、企業におけるBYODの認可状況は、「会社のルールとして、認めていない」との回答が62.3%に上った。次いで「会社に明確なルールがなく、どちらとも言えない」が27.2%。一方、会社のセキュリティ対策を施した上で「一部の部署・従業員に対して認める」は8%、そして「全従業員に対して認める」は2.5%にとどまった。
この傾向は従業員規模が大きくなるほど顕著に表れており、1001人以上の大企業では72.3%が「認めていない」と回答。100人以下の中小企業でも、53.4%が「どちらとも言えない」と回答し、会社として、特にスマートデバイスの利用に関するセキュリティポリシーの策定や運用がまだできていない現状が見て取れる結果となった。
この調査は、同サービスが2014年3月中旬に従業員規模や業種を問わずアンケート形式で行ったもので、有効回答数は439。BYODを取り上げた調査としては、筆者が調べた範囲で特に最近のものであり、複数の調査会社が2013年に実施したBYOD関連の調査でも同様の傾向が見られることから、現時点、日本におけるBYODの広がりはまだゆるやかだと想定できる。
米国のBYODが日本でなじむかは、別次元の話
では、果たしてBYODはこれから大きく広がっていく可能性はあるのか。まさしくこのテーマで、BYODに関係する14人が座談会を行い、忌憚のない意見を述べた興味深いリポートがあるので、ここで紹介したい。そのリポートとは、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)のセキュリティ(BYOD)研究会が2014年8月にまとめた「BYOD覆面座談会実施報告書」(関連リンク参照)である。
覆面座談会に参加した14人は、ユーザー企業の情報システム部門や経営企画部門、人事系コンサルタント、ITベンダーのマーケティング担当など、多岐に渡る。ここではその中から筆者が注目した発言を抜粋して記しておきたい。
まずは、BYODについてのこんな発言から。
「使い勝手がよいツールが目の前にあって、それを仕事では使ってはいけないと規制するほうが無理がある。一方、労働時間管理や過重労働の防止は必要であり、そのためのインフラを作る努力を行うことが重要である」
「技術がBYODを実現する方向性に近づいてきており、今が過渡期ではないか。これからよい事例が出てくるのではないか」
日本企業と海外企業の違いについて、米国のBYOD事例が日本でなじむかは別次元の話のようだ。
「米国では、会社と個人の関係は役割がはっきり定義されている。日本は、結果と対価の関係が米国ほどクリアではないので、会社が個人に求めるものと個人が会社に求めるものがどこかで曖昧になっている。ここが変わらないと、米国の仕組みを日本で実施することは難しい」
「文化の違い、産業構造の違いによって、仕事のスタイルは変わる。米国のBYODが日本で馴染むかは別次元の話。日本はIT投資の評価も甘い。BYODは推進したいが、立ち位置は少し考えるべきだ」
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