東京・高円寺に少し変わった漫画喫茶がある。
一般的に漫画喫茶といえば、薄暗い店内、いろんなジャンルの漫画が置かれた本棚、ずらっと並んだ個室、といったイメージかもしれない。
しかし、その漫画喫茶では何と、漫画を「読む」だけではなく「描く」こともできるのだという。『サイボーグ009』や『仮面ライダー』で知られる石ノ森章太郎先生も喫茶店で原稿を描いていたというが、まさか漫画を描くための喫茶店があるとは。店の名前は「漫画空間」というそうだ。
さっそく高円寺までやってきた。目指す漫画空間は高円寺駅北側のバスロータリーを挟んだ向こう側、駅からでも見える距離にある。
心の中で突っ込みを入れつつ店内に入ると、そこにはオシャレな空間が広がっていた。やはりここは記者の知る漫画喫茶とは違うようだ。
店内には、アナログ用の席が15席、デジタル用の席が4席用意されていて、デジタル席では備え付けのデスクトップとワコムのペンタブレットを使って作業できるようになっている。すべてのPCに、デジタルでの漫画制作に欠かせないComicStudioとCLIP STUDIO PAINTが入っているほか、Adobe Photoshopが1台、「ペイントツールSAI」が2台のPCにインストールされている。
手書きの人には、ペンや定規、消しゴムのほか、トーンカッターやミスノン(修正液)やトレース台などの無料貸し出しもしている(原稿やスクリーントーンは有料)。漫画空間は手ぶらで来ても漫画を描ける、漫画家専用のコワーキングスペースといった感じだ。
漫画「喫茶」でもあるため、フードやドリンクの提供も行っている。ドリンクは、コーヒー、カフェオレ、紅茶、ジャスミンティーのほか、缶ジュースやペットボトル飲料もある。フードはカレーライス(500円)とスパゲティ(450円)の2種類。カレーのルーは、名古屋在住のスリランカ人が作っているとのこと。カシューナッツ、エビ、チキンの3種類から2種類を選択できる。スパゲティはナポリタンと明太子の2種類。
漫画空間は2010年に名古屋の大須で誕生した。高円寺店は2号店(東京では1号店)。大須店では1万冊ほどの漫画を読むことができ、一般的な漫画喫茶の要素も持ち合わせているが、高円寺店には大小あわせて5つほどの棚しかなく、どちらかといえば作業スペースとしての色が強い。そんな高円寺店の特徴は、何といっても店長を務めるのがプロの漫画家だということだ。
高円寺店では、Webコミックサイト「画楽ノ杜」で『ティガチャンティック〜三匹の妖怪少女〜』を連載中の深谷陽先生と、ComicStudioの開発にも携わっていたというアッコ先生、そして、『月刊少年ジャンプ』や『ヤングチャンピオン』などでの連載経験を持つ高岩ヨシヒロ先生の3人が日替わりで店長をしている。それぞれのシフトは、深谷先生が日・月・水・木曜日、アッコ先生が火・土曜日、高岩先生が金曜日。
漫画空間では、3人の店長による漫画講座も開講している。各回定員4〜6人ほどで、ネームやデジタル、キャラクター、劇画風アクションなどを基礎からしっかりと学ぶことができる。
深谷先生は店内に仕事場を持っていて、勤務日は店長として接客するかたわら漫画を描いている。深谷先生の生原稿も並んでいるので、ぜひ手に取って読んでみて欲しい。
プロの漫画家の仕事を目の前で見られる機会なんてめったにないこと。せっかくなので、深谷先生に作業しているところを見せていただいた。
瞬く間に姿を現す登場キャラクターたち。さらさらと30分ほどで描き上げてしまった。こんな目の前でプロの仕事見ちゃっていいのだろうか……。これだけでもお金とれるんじゃなかろうかというゲスい考えが浮かぶ。
深谷先生ショートインタビュー
—— どういった経緯で店長になったんですか?
深谷先生 知り合いの漫画家さんからの紹介ですね。人柄で選んでいただいたそうです(笑)。
—— 声がかかった時はどう思いました?
深谷先生 仕事の時間が取れなくなるかなと思って悩んだんですけれど、最終的には「面白そう」という思いが勝ちましたね。それに今や店内で仕事できますからね(笑)。
—— 深谷先生が漫画家を志したのはいつごろですか?
深谷先生 大学を卒業してからですね。美術大学を卒業したのですが、もともとは特殊メイクに興味があったんです。でも、バリを旅行したときにある女性を好きになりまして……。彼女を漫画に描きたいと思ったのがきっかけですね。その辺りの話は、先日の『モーニング』に掲載してます(6月19日発売のモーニング29号掲載『楽園のスキマ』)。
—— 漫画を読みに来る人はいますか?
深谷先生 少ないですが、中にはいらっしゃいます。なので少しずつ漫画の数を増やしていきたいですね。
—— 描き方を教えることが多いと思いますが、逆に学ぶことはありますか?
深谷先生 ありますよ。自分が漫画を描く上で忘れていたことを思い出させてくれたりします。人に教えながら、自分にも教えるみたいな感じです。
—— もともと教えることがお好きなんですか?
深谷先生 専門学校で授業を持っているというのもありますが、何ていうんでしょう、「漫画はこういうものだ!」というような考えは持っていないんです。ただ、一人ひとりに対しては教えられることってあると思うんですよね。
—— 作業中にも関わらずありがとうございました!
漫画空間 高円寺店
営業時間:午前11時〜午後11時
住所:東京都杉並区高円寺北2丁目6-1 湘和ビル2階
TEL:03-5327-8167
関連記事
- 現代版“ゆるゆる”まんが道「漫画専門学校生の青春」にみるケミストリー
横山了一、山田こたろの異色タッグが描く現代版“ゆるゆる”まんが道「漫画専門学校生の青春」。月刊コミックゼノン初の4コマ連載の第1巻発売を記念して、横山さんにいろいろ聞いちゃいました。 - 不登校と漫画と鳥山明——漫画を描き続けて自分と世界が変わるまで
漫画家・鳥山明氏が「思った以上に漫画を描く事が彼を救っていたようだ」とコメントを寄せた棚園正一氏の『学校へ行けない僕と9人の先生』。強烈な孤独とそこに射した一筋の光を描いた同作品の誕生秘話を聞いた。 - 「MANGA姉っくす!」ゲストにやぶのてんや、深谷陽登場
ニコが放送しているマンガ家トーク番組「MANGA姉っくす!」に、『イナズマイレブンGO』のやぶのてんや氏と東京進出の決まった漫画空間・東京店店長深谷陽氏が登場する。 - デジタルコンテンツでライフスタイルに変革を——電子書籍が読める「BOOKSHELF CAFE」に行ってみた
- 本について語り合う場を——夜の渋谷に図書館のようなバ—「森の図書室」がオープン
関連リンク
Copyright© 2014 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.