先週、東京国際フォーラムで開催された「ケーブル技術ショー」の一角で気になる参考展示を見つけた。ソニーが「J.382」という方式による4K伝送のイメージ展示を行っていたのだ。将来の8K伝送を見据え、国内CATV事業者に“新しい選択肢”を提案するという。
実は、ソニーは世界中の放送方式に対応したチューナーLSIチップセットを開発している唯一のメーカーでもある。ドイツが中心となって提案した次世代ケーブルテレビ伝送方式の国際標準「J.382」(ITU-T勧告 J.382)対応製品も手がけており、その日本向け仕様が来年夏にも規格化されるため、参考展示したという。
8Kを効率的に伝送できるJ.382
現在、J:COMが行っている4K試験放送では、CATVデジタル放送向の標準であるISDB-C方式を使っている。H.265(HEVC)でエンコードした4K映像と音声(最大5.1chのMPEG-2 AAC)は、約35Mbps。もともと東経124/128度CSのトランスポンダー1基(40.5Mbps)に合わせたビットレートだが、CATVでも変調方式に256QAMを使うことで1チャンネルに収めることができた。
64QAM | 256QAM | 1024QAM | 4096QAM | |
---|---|---|---|---|
伝送容量 | 約29Mbps | 約39Mbps | 約49Mbps | 約59.3Mbps |
しかし、現在のISDB-C方式は256QAMが上限。100Mbps前後と見込まれている将来の8K放送を再送信する場合は、複数のチャンネルを使わなければならない。実際にJ:COMとNHKは5月に既存ケーブルネットワークを使った8K伝送実験を行っているが、3つチャンネル(64QAM×1、256QAM×2)を束ねて使用するISDB-Cの拡張方式だった。
一方のJ.382方式では4096QAMを使うこともできるため、8K映像を2チャンネル(約59.3Mbps×2)で伝送可能だ。つまり将来的に8K対応の放送局が複数登場した場合、ISDB-C方式はJ.382方式の1.5倍という周波数帯域を消費することになる。多チャンネル放送を行っているCATV局にとって周波数の有効利用は課題で、J.382を採用するメリットも大きいだろう。「現在のISDB-Cを超える規格として、来年にはNHKの方式とJ.382の両方が規格化される。われわれもCATV局に選択肢を提供したい」(ソニー)。もちろん、一方で変調器の交換など投資が増える可能性もある。CATV事業者はISDB-C拡張方式と天秤にかけることになりそうだ。
さらにもう1つ。8K伝送の3つめの手法といえそうなのが、“IP伝送”だ。昨年10月に米CableLabsがリリースした「DOCSIS 3.1」を機に、欧米ではCATV局の“オールIP化”が議論されているという。DOCSIS 3.1は、現在のCATVで主流のHFC(Hybrid Fiber Coax)ネットワークを使い、下り最大10Gbps、上り最大1Gbpsとを実現するというもの。まだ対応機器がケーブルモデムしかないため実際のサービスは行われていないが、2015年にはセンター側の対応設備も登場する見込みだ。そして国内でも、J:COMが4K試験放送をRFとIPの2本立てで行うなど、4K/8KのIP放送を視野に入れた動きが実際に出てきている。
4K試験放送と将来の8K。4Kまでは既存インフラの拡張で乗り切る算段ができたものの、8Kはもう1段ハードルが高い。CATV局にとって大きな付加価値となる一方、伝送方式やインフラ投資、タイミングといった難しい判断も迫っている。
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