「カルビーのポテトチップス」——。このフレーズを目にして、TVコマーシャルに登場するタレントなどが歌うメロディがすぐさま頭に浮ぶ読者は多いはずだろう。
1975年に「ポテトチップス うすしお味」を発売して以来、「コンソメパンチ味」、「のりしお味」をはじめとするロングセラー商品を世に生み出したほか、トレーディングカードのおまけ付きで子どもたちの心をつかんだ「プロ野球チップス」など、老若男女問わず、幅広い層に愛され続けているのが、大手スナック菓子メーカー・カルビーのポテトチップスだ。
現在カルビーでは、ポテトチップスのほか、「じゃがりこ」「じゃがビー」などじゃがいもを原料とする商品をポテト系スナック、「チートス」や「ドリトス」といった商品をコーン系スナック、「フルグラ」などの商品をシリアル食品、といったカテゴリーに分類している。言うまでもなく、その中で主力事業となっているのが、ポテト系スナックである。
売り上げは好調で、2014年3月期のポテト系スナックの売上高は1118億8800万円と、カルビーの売り上げ全体の56%を占める。また、ポテトチップス商品に関しては、他社も含めた日本における市場全体の約7割のシェアを持つほどだ。
その反面、ポテト系スナックへの依存度が高過ぎることが事業リスクになるとも言えなくない。過去にも原料となるじゃがいもの不作でポテトチップスの容量を減らすなど苦肉の策を余儀なくされたことがあった。そうした中で非常に重要となってくるのが、じゃがいもの安定的な供給である。それに向けてカルビーグループでは、数年前からさまざまなデータを駆使して不作のリスクを抑制するとともに、収量の増加に取り組んでいる。その中心的な役割を担っているのが、カルビーのグループ企業であるカルビーポテトだ。
どうやってじゃがいもを安定的に調達するのか
北海道でも有数の畑作地帯である十勝平野。その玄関口に当たるとかち帯広空港に降り立つと、果てしなく続く、青々とした農地が眼前に広がる。ここ十勝地域では、主にじゃがいも、小麦、豆類、てん菜(ビート)のいわゆる「畑作4品」の生産が盛んである。カルビーポテトはこうした十勝地域の拠点都市である帯広市に本社を構える。
カルビーポテトは、じゃがいもの安定供給を図るため、1980年にカルビーの原料部門の分離独立によって設立した。主な事業内容は、じゃがいもを中心とした農産物の調達、貯蔵、物流、加工販売、研究開発、栽培などで、じゃがりこやマッシュポテトを製造する帯広工場も持つ。
カルビーポテトが調達するじゃがいもは年間23.5万トン。これは実に日本全体のじゃがいも収量の約1割に当たる。そのうち北海道での収量は18.6万トンで、このほか長崎、岐阜などの地域で収穫されている。さらに細かく見ると、約1100の契約農家を抱える北海道では大きく十勝、網走、上川の3エリアに分かれ、最も収量の多いエリアが十勝(10.2万トン)となる。日本では現在、ポテトチップスの原料となる生のじゃがいもを輸入することが規制されているため、いかに北海道でのじゃがいもの調達がカルビーグループのビジネスにおいて重要であるかが分かるだろう。
現状では商品の製造に必要なじゃがいもの供給が十分にできているわけだが、親会社であるカルビーの売り上げ成長に伴い、2018年には30万トンのじゃがいもが必要になるという試算が出ている。従って、約7万トンという現在とのギャップをいかに埋めていくかが今後求められてくるのだ。加えて、悪天候や疫病などによっていつ不作になるか分からないというリスクとも常に隣り合わせなのである。
さらには、農業人口の減少も無視できない問題だ。北海道のじゃがいも農家数は、1985年には約2万5000戸あったのが、現在は約1万戸と減少の一途をたどっている。1人当たりの栽培面積が増えている一方で、じゃがいも栽培は手間がかかるため、小麦に転作する農家も少なくないという。実際、ある労働生産性に関するデータを見ると、じゃがいもは124時間で約4万円なのに対し、小麦は13時間で約1万5000円と効率が良い。
また、カルビーがポテトチップスの原料に使うじゃがいもの品種は、主にトヨシロ、スノーデン、キタヒメの3種類であるため、仮に既にあるじゃがいも農家にアプローチするにしても、例えば、男爵やメークインなど、栽培している品種が異なればすぐさまの契約は難しい。収量を伸ばすために契約農家数を増やすという手段は、実はハードルが高いのである。
つまり、カルビーポテトとしては、現在の契約農家を中心にしてじゃがいもの収量を上げていくとともに、収量を下げないために不作のリスクをいかに少なくするかという2つの挑戦課題を抱えているのである。それらを解決に導くべく同社が積極的に取り組んでいるのが、多種多様なデータの活用である。
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