自炊といえば裁断、だったが……
電子書籍の普及はもはや「本物」と言っていい状況になった。電車に乗って周囲を見回せば、スマートフォンやタブレット端末で電子書籍を読んでいる人は少なからず目につく。電子書籍ストアは群雄割拠といった状態で、通信キャリア、出版社、書店、ネット通販、OSベンダーに至るまで、さまざまな業界が進出している。
その一方で、すでに紙媒体として所有している書籍を持ち運びやすいように、あるいは検索性を上げるため、保管場所を減らすためなどの理由から、ユーザー自身の手でスキャンし、電子データ化する人も少なくない。
これは俗に“自炊”と言われている行為だが、その際に重宝するのがオートシートフィーダ付きのドキュメントスキャナだ。フラットベッドスキャナの場合は1枚1枚、裏返しながら手で原稿を差し替えていかなければならないが、ドキュメントスキャナならまとめて原稿をセットすれば1枚ずつ原稿が送られ、1度で両面をスキャンできる。
その構造上、ドキュメントスキャナを利用するときは原稿は書籍の形ではなく、裁断され、ページごとにバラされた状態でなければならない。Amazonで自炊ユーザーの定番スキャナであるScanSnapの最新モデル「iX500」を検索すると、「よく一緒に購入されている商品」に裁断機が表示されることからも、書籍を裁断してスキャンという流れが一般的であることが分かる。
当然ながら裁断すると元の書籍の形には戻らない。再製本をすることも不可能ではないが、その手間を考えると対象は限定的になる。ドキュメントスキャナの普及によって自炊の手間は大幅に軽減されたものの、その代償としてオリジナルに対して不可逆な裁断処理を行わなければならない、というのが半ば常識でもあった。そのことが逆に「自身が所有している書籍に対してしか(現実的には)自炊はできない」という、無制限なコピーに歯止めをかけていたという一面もある。
そうした“自炊”を取り巻く状況に衝撃をもたらす製品が発表された。ScanSnapの新モデル、ScanSnap SV600は今までの常識を覆す「非破壊自炊」を可能とするモデルだ。
オーバーヘッドスキャン方式のScanSnap SV600
SV600はライト部分が短い卓上電気スタンドのような外観をしている。上部にある読み取りヘッドで卓上に置かれた原稿を読み取るオーバーヘッドスキャン方式、これが非破壊スキャンの「キモ」だ。
はじめに断っておくが、このような「非破壊自炊」スキャナはSV600が初めてではない。1万円台で入手できる安価なものから、数百万以上の高価なものまで複数販売されている。
安価なものでは固定したデジカメで上から撮影するような仕組みのものがある。駆動部分がないため、センサーでスキャンできる範囲が取り込めるサイズだ。ページめくりの検出、取り込んだデータの補正などには対応していない(他社製のレタッチツールを使えば可能)。高価なものではライン型センサーによる高解像度読み取り、ページめくり検出、ページ自動補正、さらにはページめくり自体を自動で行うものまである。
SV600はちょうどその中間となるもので、スキャナとしては高価ではあるものの、個人でも手の届く5万円台という価格を実現している。このクラスの品質と機能をこの価格で実現しているというのは絶妙といえる。
SV600の特徴は、原稿全体を均一に読み取る「VIテクノロジー」だ。これは高被写界深度レンズ、ライン型CCDセンサー、高指向性LED光源の組み合わせで実現されている。
高被写界深度レンズ、というのは遠近広い範囲でピントが合う(パンフォーカス)レンズのことで、これによって厚みのある書籍(30ミリまで)であってもぼやけることがない。ピントの合った画像をライン型CCDセンサーが一列に並んだセンサーで順次「走査」して画像を取り込んでいく。
その際に安定した光源となるのが高指向性LED光源だ。SV600の電源を入れると、まず、本体下部にある白いキャリブレーション用の領域を高指向性LED光源で照射、スキャンしてホワイトバランスを調整する。スキャン時にはヘッドが動いて順次スキャンされていくのが分かる。
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