両社ともB2BのICT事業は好調に推移
富士通とNECが先週、相次いで2013年度(2014年3月期)の連結決算を発表した。富士通は増収増益で最終損益が前年度の赤字から黒字に転換した一方、NECは減収とともに営業利益および経常利益で減益に。ただ最終損益は関係会社の株式売却益などで増益となった。
富士通が4月30日に発表した2013年度の連結業績は、売上高が前年度比8.7%増の4兆7624億円、営業利益が同61.5%増の1425億円、経常利益が同42.9%増の1406億円、最終損益が前年度799億円の赤字から486億円の黒字になった。
一方、NECが4月28日に発表した2013年度の連結業績は、売上高が前年度比0.9%減の3兆431億円、営業利益が同7.4%減の1062億円、経常利益が同24.9%減の692億円、最終損益が同10.9%増の337億円だった。
全体の業績では、それぞれの事業構造改革の進ちょく状況に伴って明暗が分かれた格好の両社だが、企業向けを中心としたB2BのICT事業はいずれも国内のICT投資回復に伴って好調だった。
同事業に相当するセグメントの業績を見ると、富士通はテクノロジーソリューション分野で売上高が前年度比10.2%増の3兆2430億円、営業利益が同20.2%増の2091億円と高い伸びを示した。
NECもパブリック分野で売上高が前年度比8.5%増の7384億円、営業利益が同19.6%増の586億円、エンタープライズ分野で売上高が同8.2%増の2723億円、営業利益が同18.2%増の65億円と、両分野が全体の業績を牽引した。
2014年度(2015年3月期)の連結業績見通しについては、富士通は売上高が前年度比0.8%増の4兆8000億円、営業利益が同25.6%増の1850億円、最終損益が同10.4%増の1250億円と予想。なお、同社は2014年度から連結決算に国際会計基準(IFRS)を任意適用すると発表。このため、業績見通しの伸び率は2013年度実績をIFRSに基づいて換算した形となっている。
一方、NECの2014年度連結業績は、売上高が前年度比1.4%減の3兆円、営業利益が同13.0%増の1200億円、最終損益が同3.9%増の350億円となる見通し。関係会社の売却に伴って減収になる見込みだが、継続事業ベースの売上高では約4%の増収になるとしている。
攻めどころで両社の違いが浮き彫りに
このように両社が主力とするB2BのICT事業の業績は、国内のICT投資の増加に伴ってひと頃よりだいぶ回復してきたが、売上高営業利益率を見ると、富士通が3.0%、NECが3.5%と、二桁台が多い海外の競合ベンダーの水準にはまだまだほど遠い。もちろん、事業内容の違いがあるので一概に比較はできないが、売上高営業利益率のアップが競争力向上につながるだけに、両社にとっては引き続きの大きな課題となりそうだ。
さらに、通期の決算発表で両社ともトップが会見を行うということで、筆者はクラウド事業の手応えと今後の攻めどころについて両トップに同じ質問をしてみた。
富士通の山本正已社長はこれに対し、次のように答えた。
「これまでのソリューションやアウトソーシングといったビジネスが、最近ではほとんどクラウドの範ちゅうに入ってきている。その意味では、富士通の中でもクラウド事業は拡大している。Amazon.comやMicrosoftなどがグローバルにクラウドサービスを展開しているが、技術ベースでは全く引けをとらないと自負している。ただ、事業規模を背景とした価格競争において苦戦しているのは事実だ」
「ではどうやって戦っていくか。当社は2つの戦略に注力していきたい。1つは、顧客の財産を確実に守るためのセキュリティなど信頼性を価値として認めてもらえるような提案を行っていくこと。もう1つは、競争の激しいIaaSやPaaSの領域で真っ向から戦うのではなく、SaaSを軸としたトータルサービスで顧客ニーズに応えていくことだ」
一方、NECの遠藤信博社長は次のように答えた。
「クラウド事業はソリューションが12個ほど出てきたが、ビジネスとしてはまだまだこれからだ。現在、500人体制で業種別展開などに力を入れているが、ビジネスモデルとして確立するには、まだしばらく時間がかかりそうだ。ただ、ポテンシャルの大きい分野なので何とか形にしていきたい」
「今後、クラウド市場で優位性を発揮していくためにも、当社が得意とする分野に一層磨きをかけていきたい。中でも顔や指紋、声帯などの認証については、その中核となる技術をさまざまなビッグデータ分析にリアルタイムに適用することができれば、非常に大きな価値を生むと考えている。この価値を大きなビジネスにしていけるよう、チャレンジしていきたい」
両社トップのコメントからは、クラウド事業に対する方向性の違いが浮き彫りになった印象が強い。富士通の山本社長はかねて「垂直統合型ビジネスモデルの推進」を掲げてきたが、改めてそれを強調したものといえる。一方、NECの遠藤社長はかねて「社会ソリューション事業への注力」を掲げてきたが、認証技術の横展開などの発想はそこが起点になっているように受け取れる。
こうした方向性の違いが今後、両社それぞれの成功につながるのか、それとも軌道修正を強いられることになるのかは分からない。ただ、グローバルなクラウド市場において海外ベンダーばかりが目立ちがちな中で、日本を代表する両社がどのように存在感を高めていくことができるか。両社もさることながら、日本のICT産業にとっても正念場を迎えているような気がする。
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