著者紹介:宮田健(みやた・たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。アイティメディアのONETOPIでは「ディズニー」や「博物館/美術館」などのキュレーターをこなしつつ、自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め日々試行錯誤中。
「会社のメールサーバーは500メガバイト(※)しかなかった。それでも、足りなくなったことはあまりなかった」——社員が数名の零細企業ではない。2011年末時点での「横浜ベイスターズ」球団事務所の話だ。普段、IT導入に積極的な企業をインタビューしている筆者にとって、非IT企業のリアルな現状を突きつけられた気持ちになった。(※編集部注:300文字程度のメールで、約10万通程度の容量)
職人集団「横浜ベイスターズ」×IT企業「DeNA」=前途多難?
2011年12月2日、ディー・エヌ・エー(DeNA)は横浜ベイスターズの株式を取得し、「横浜DeNAベイスターズ」が誕生した。このチームは、赤字続きという経営面の課題を抱えており、毎年親会社からの損失補填(ほてん)で運営を続けていた。その改善を図るため、まずはIT面からの刷新が始まった。
球団事務所の主な業務は、プロ野球の試合を興行として提供すること。スタッフは、編成やスカウト、スコアラーといったチーム運営部門、チケットを販売するチケット営業部門やグッズの企画・販売を手がけるMD部門、スタジアムの演出を担当するエンタメグループ、管理部門などで構成される(チームに所属する選手やコーチは、球団事務所と契約する個人事業主のため含まれない)。
そもそも、球団スタッフ全員がインターネットにアクセスする環境すらなかった。外部とのコミュニケーションは電話かFAXが中心。スタッフ間の情報伝達にしても紙の書類を回覧するという昔ながらのやり方だった。会議室はなく「応接室」があるのみ。執務スペースは、昔の学校の職員室のようだった——。
当時、管理部門を担当することになった萩原龍大氏(現チーム統括本部 ファーム・育成部 部長)は、DeNAという「ITの世界」から、横浜ベイスターズ球団事務所という「職人たちの世界」に飛び込んだ当時を、こう振り返る。
普通のIT企業と同等になるまで5カ月もかかるとは……
萩原氏は着任後、すぐにITインフラを「DeNAほどではないが、IT業界の平均と言える程度のレベル」にまで引き上げる作業を行う。この作業に5カ月かかった。萩原氏は「こんなに時間がかかるとは思わなかった」と笑う。
携帯電話は支給されていたが、PCは全員に行き渡っていない。まずは、全社員にPCとスマートフォンを支給し、必要があればiPadなどのタブレットも配布した。DeNAで利用していたGoogle Appsを導入して、外出時にもメールやスケジューラーを使えるようにした。
また、社内にはWi-Fi環境を整備したり、外部から社内ネットワークにアクセスできるVPNやオンラインストレージも提供したりと、データへのアクセスや共有を容易にした。現在では、事務所とスタジアム、一軍とファームなど所在が違う場合には、Skypeでのビデオ会議が盛んに行われている。
情報共有のためにイントラネットを構築した結果、部門の壁を越えた事務所全体での情報共有が実現した。仕事の「見える化」も進み、球団職員が業務の枠を超えて、“ファン獲得のための知恵を持ち寄りあう環境”ができた。2013年シーズンの観客動員数は対前年比122%と増加し、赤字も年間で10億円程度圧縮できたという。
項目 | 横浜ベイスターズ時代 | 横浜DeNAベイスターズ時代 |
---|---|---|
外部との連絡手段 | 電話とFAX | メール+電話、FAX。外出時もスマホでメールを確認でき、顧客対応が迅速化 |
社内の連絡手段 | 業務部門間で断絶 | スケジュールをインターネット上で共有/外出時からもスマートフォンで確認できる |
会社設備の共有 | 会議室がない | スマホで会議室や営業車の予約ができる |
営業資料の共有 | 紙ベース | 社内サーバで共有、外出時からもスマホで確認できる |
顧客管理データベース | 未導入 | 誰が、どこに、どんな話をしているのか共有、組織的な戦略が立てられる |
横浜DeNAベイスターズ ITビフォー・アフター |
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