情報教育を全面的に練り込んだ新学習指導要領は、すでに平成20年度から小中学校では導入できる部分は先行して実施されてきた。そして小学校では23年度、中学校は24年度、高等学校は25年度から全面実施に移行した。
情報教育への取り組みは各教科だけでなく、総則に具体的な目標がセットされた。義務教育でもある小学校向けの総則では、
(9) 各教科等の指導に当たっては,児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ,コンピュータで文字を入力するなどの基本的な操作や情報モラルを身に付け,適切に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。
とある。情報モラルにも配慮されているが、小学校では第一の目標として「慣れ親しむ」ことがメインということだろう。一方中学校の総則では、
(10) 各教科等の指導に当たっては,生徒が情報モラルを身に付け,コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を適切かつ主体的,積極的に活用できるようにするための学習活動を充実するとともに,これらの情報手段に加え視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。
といった具合に変わる。始めに情報モラルが出てくるあたり、ウエイトはそちらに置くということだろう。いずれにしても、小中学校ではこれらの目標に向かって、各教科で取り組む必要がある。
ただ情報モラルと一口に言っても、これまでこの連載で数多くの問題を見てきたとおり、そのカバー範囲は多岐に渡る。どの教科でどの問題を扱うのか、具体的な手分けが必要になってくる。
どの教科で何をやるのか
保護者が心配するようなネット利用が懸念されるのは、やはり中学校ぐらいからだろう。では具体的にどのような教科でネットに関する授業が可能なのか。中学校の学習指導要領の中で具体的に示されているのは、技術・家庭、保健体育、道徳の3教科である。そのほか、「総合的な学習の時間」もこれに充てることは可能だ。
ネットの問題というと真っ先に思い当たるは技術・家庭だ。特に中学の技術から情報を扱うというのが、今回の学習指導要領の目玉である。だが授業時数は、技術と家庭を合わせて主要5教科の半分しかない。さらに技術だけに注目すると4分の1程度になってしまい、音楽や美術と同程度となってしまう(余談だが、昔は男子は技術科、女子は家庭科を学べばよかったが、1993年から94年にかけて両方とも男女共修となっている)。
少ない授業数の割に教えるべきことも多く、中学校の「技術」の教科書を見ると、材料と加工、エネルギー変換(電気回路含む)、生物育成、情報技術、これだけの内容を3年間で学ぶ。
情報技術においても、その内容はデジタル化とネットの仕組み、デジタルでのモノづくり、コンピューターによる計測(センサー)と制御(プログラミング)、ICTの未来といった項目が並んでおり、情報モラルに関する部分は2ページ程度しかないのが現状である。
技術科で扱う情報モラルとは、
著作権や発信した情報に対する責任を知り、情報モラルについて考えること。
となっており、その内訳は著作権と個人情報の保護である。
一方、ネット依存など健康とのかかわりについては、保健体育で学ぶことになっている。ただそれも指導要領としては、
食育の観点も踏まえつつ健康的な生活習慣の形成に結び付くよう配慮するとともに,必要に応じて,コンピュータなどの情報機器の使用と健康とのかかわりについて取り扱うことも配慮するものとする。
と記すに留まっている。つまり、必要がなければ扱わない学校もあることになる。
道徳の時間においても、指導要領としては情報モラルに関する指導を行なう事になっている。そもそも道徳の教育内容としては、
- 主として自分自身に関すること。
- 主として他の人とのかかわりに関すること。
- 主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること。
- 主として集団や社会とのかかわりに関すること。
という柱があるので、やろうと思えば1、2、4においてネットの問題を扱うことは可能だ。だが道徳教育の主眼は、というか学校教育はあくまでもリアル社会の問題を扱う事が前提なので、ネットに関する専門性の高い授業は難しい。
結局我々保護者が期待するような情報モラル教育は、道徳の授業に頼らざるを得ないということになる。さらに個別具体的な案件ともなると、授業ではなく、養護教諭やスクールカウンセラー、生徒指導といった範疇になっていく。少なくとも中学校で情報モラルを扱うようになったからひと安心というには、まだ早いようだ。
小寺信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は、ITmedia Mobileでの連載「ケータイの力学」と、「もっとグッドタイムス」掲載のインタビュー記事を再構成して加筆・修正を行ない、注釈・資料を追加した「子供がケータイを持ってはいけないか?」(ポット出版)(amazon.co.jpで購入)。
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