2014年2月15日、モノづくりとITを中心としたスタートアップの祭典「第3回 サムライモノフェスティバル」が、東京都江東区のテレコムセンターで開催された。開催日は、東京に記録的な大雪が降った翌日だった。雪は上がったものの、都内の交通は通常ではなく、会場への最寄り駅がある新交通システム「ゆりかもめ」も不通、歩道には足首まで埋まるほどの雪、冷たい北風……。
しかし、そんなことはモノともしない多くの人たちが、日本から世界を変えようとしている“サムライたち”と出会うために会場を訪れた。
今回は、大企業の取り組みと、中小企業(町工場)の取り組みを取り上げた2つのセッションを紹介する。
大企業のモノづくりにおけるクラウドソーシング活用 〜パナソニックコンシューマーマーケティングデジカメデザインの事例〜
私たちが、大企業の名の通った製品を選ぶ理由の1つには、品質や安心感があるのではないだろうか。しかし一方で、大企業は枠からはみ出すことが難しいのも事実だろう。そんな中、もっと「面白いもの」に挑戦したのがパナソニックだ。
パナソニックは、コンパクトデジカメ「LUMIX」表面のオリジナルデザインをクラウドソーシングのポータルサイト「ランサーズ」で募集した。採用された50種類のデザインモデルが、パナソニックの公式直販サイト「CLUB Panasonic My MALL」で限定販売されている。
このセッションでは、パナソニック コンシューマーマーケティング eコマースビジネスユニット 商品グループ 木綿秀行氏と、ランサーズ ビジネス開発部 山口豪志氏が登壇し、LUMIXの事例を軸に、大企業にとってのクラウドソーシング、またその課題や今後の可能性が語られた。
ランサーズは、2008年に日本で生まれたクラウドソーシングサービス。現在、クライアント企業数は6万2000社、クリエイター登録数は25万8000人に上るという。
パナソニックは、2013年4月からCLUB Panasonic My MALLで、顧客オリジナルデザインのデジカメを1台から作れるサービスを展開している。それに加えて、多様なデザインを実際の商品として販売したいと考え、ランサーズに注目。当初10日間で200〜300の応募が集まれば大満足と考えていたが、実際はランサーズのデザイン企画史上最多となる1303件に上った。
デザイナーからのメッセージには、「LUMIXを昔から使っている」「商品企画に携われるのがうれしい」といった内容が多く、木綿氏は「報酬を得ることより、LUMIXという商品に携われることに価値を感じてもらえたのではないか」という。
大企業がクラウドソーシングという新しいサービスを使うことに抵抗はなかったのか。木綿氏は社内のデザイナーからの物議を懸念したが、デザイナーからは「どんな作品が来るのか見てみたい」という声すらあったそうだ。
しかし大手企業でのクラウドソーシング活用は、まだまだ。拡大させるためには何が必要なのか。
山口氏は「ディレクション能力」と「クオリティコントロール」を挙げる。通常の外注の場合は価格にディレクションも含まれているが、クラウドソーシングの場合は利用する企業側でディレクションしなければならないからだ。また応募作品のクオリティは「ピンキリ」なので、「全て一定水準を超えているとコミットできるよう、サービス提供者として何かしら手を講じていきたい」(山口氏)ともいう。
実際にクラウドソーシングを経験した木綿氏も、「簡単に調達できる場と考えるのは間違い。作品の選別やディレクションに社員の工数をかけなければならないので、コストパフォーマンスを上げるにはディレクション力を上げるしかない」と語る。
併せて山口氏はリスクコントロールの重要性も指摘する。現在クラウドサービス自体を企業が導入し始めた段階なので、大手企業になればなるほど安全面を懸念する。日本の商習慣とどうすり合わせていくのかも課題の1つといえそうだ。
今後の可能性を考える上で、大企業の強みの1つとして木綿氏は「品質保証のノウハウを持っていること」を挙げる。一方、「クラウドソーシングは、圧倒的なバリエーションを短期間に集めることができ、マーケティング、プロモーションとしても活用できることが強み。しかし本質的には、お金のやりとり、コミュニケーションのトラブルを回避することが、サービス提供者の役割」と山口氏。
「クラウドソーシング、メーカー、またサービスプラットフォームの強みを掛け算することでモノづくりのクラウドソーシングは成立する」(山口氏)、「メーカーのクラウドソーシングは、ハイブリット的な状態で、先進国では伸びていくだろうと思う」(木綿氏)と、両氏はクラウドソーシング活用への期待を語った。
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