LTEなど高速なモバイル回線とスマートフォンの普及により、既存の通信事業者から設備を借り受けて通信サービスを行う「MVNO」への注目が高まっている。
これまでのMVNO、特にモバイルデータ通信で一般的なのが、大手キャリア(MNO)と同じ内容のサービスを他社(MVNO)のブランドで再販するケースだ。料金もキャリアが設定する定額制料金より大きく変わらず、提供企業が独自のポイントを上乗せして差別化を図るケースが多い。しかし最近は、キャリアのサービス内容とはかけ離れた、制限はあるが料金を低く設定したMVNOサービスが目立ってきた。
画一的だったモバイル通信サービスが、MVNOによって多種多様な内容に細分化しつつある。その流れを加速させるのが、MVNOが借り受けた回線をさらに再販するMVNEという存在だ。単独ではキャリアとの交渉が難しい、またはニーズやアイデアはあるがモバイルに関するノウハウやリソースが少ない——といった企業でも、MVNOを仲介役として回線を借り受けれ、よりきめ細かい、あるいは専門性や独自性を高めた通信サービスを提供できる。
老舗インターネットサービスプロバイダー(ISP)であるインターネットイニシアティブ(IIJ)も、MVNOとして独自のモバイル通信を提供する一方、MVNEとしてパートナー企業に通信回線を卸す立場だ。ワイヤレスジャパン2013のIIJスペシャルセッションでは、MVNEとしての同社の姿も紹介された。
法人と個人、取次と再販。4つに分類できるMVNEモデル
IIJのMVNE事業は、ユーザーが法人か個人か、また販売形態が取次か再販かで大きく4つに分けられる。それぞれでパートナー企業の分野や規模も想定されており、また利用するMVOの回線(IIJの場合はNTTドコモとイー・アクセス)も決まってくる。
法人・個人を問わず、取次モデルは小ロット単位で契約した1回線づつをエンドユーザーに販売するパターンだ。法人向けではパートナーである中小のSIerやサービス事業者がクライアントへ販売することが多く、個人向けでは各種小売店(スーパー、家電量販店、携帯電話販売店、ECサイトなど)がコンシューマー向けに販売している。サービスは基本的にIIJブランドのままであり、エンドユーザーへのサポートや決済(ビリング)はIIJが行う。パートナーは回線を販売することで、IIJから手数料を得る。
取次モデルの一例が、個人向けのIIJmioブランドサービスを全国のイオンで販売する「」だ。また6月5日発表されたビックカメラグループ向けの「IIJmioウェルカムパック for BIC SIM」もこれに含まれる。イオンやビックカメラグループはパートナー企業としてパッケージをエンドユーザーに販売するが、開通手付きや決済、サポートはIIJが行う。
もう1つのケースが再販モデルで、こちらはエンドユーザーとの契約や決済、サポートをパートナー企業が行うパターン。法人向けなら大手のSIerやM2M事業者、個人向けなら既存のISPやCATV、サービス事業者などを想定している。ある程度のユーザー規模が必要になるため、すでに通信サービスを提供している企業がモバイルサービスを開始する場合に選ばれるという。
同社の再販モデルで代表的なのが、モバイルクリエイトがタクシーやトラックなどの運送事業者向けに提供する「ボイスパケットトランシーバー」だ。業務用無線は利用者が無線設備を用意する必要があり、免許の取得や運用コスト、通信可能エリアの狭さといった課題があった。それをドコモのFOMA網を使ったVoIP(従来の無線通信と同じく半二重)で代替するのがこのシステムだ。IIJはモバイル通信を使ったアクセス網だけでなく、VoIP基盤や自動配車システム、FeliCa決済システムを集約したクラウドサービス、それらを閉域接続で結ぶネットワークサービスも提供している。
再販モデルでは回線単位だけでなく、M2M利用を想定した帯域単位での卸売りも用意されている。1回線ごとの通信速度はさほど必要ないが、多数の機器と通信する場合に有効だ。IIJでは1Mbpsからの販売が可能で、端末の数に合わせてSIMを発行する。わずか1Mbpsだが、M2Mでは数十Kbpsもあれば十分なため、かなりの端末を管理できるという。
街のスーパーで格安モバイル通信を買う時代
IIJがMVNOとして、またMVNEとして大きく期待しているのが、個人向け低価格SIMの普及だ。特にイオンで販売しているIIJmioウェルカムパックforイオンは、従来とは違った販売チャンネルでの流通であり、購買層を拡大する可能性がある。
IIJサービス戦略部の青山直継氏は、「イオンで販売した当初は、MVNOのSIM製品に詳しいユーザーが指名買いをすることが多かった。だが最近は、日常的にイオンを利用している、主婦やシニア層の購買が増えてきた」と話す。4大キャリア以外の選択肢が徐々に浸透していることに、手応えを感じているという。
またイオンは通信回線だけでなく、動画配信サービスのビデオマーケットと組んだ「ファミリービデオ」など、独自のスマホ向けサービスも展開し始めている。フィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトが進み、SNSやソーシャルゲームの利用スタイルも変貌を遂げた。さらに、LINEに代表されるコミュニケーションアプリやIP電話アプリが台頭したことで、携帯電話の音声通話やキャリアメールを使う頻度も減ってきている。
青山氏は「MVNOなら、キャリアが提供する“フルスペック”のサービスではなく、ユーザーごとに必要なサービスを見合ったコストで提供が可能だ。スマホ化はサービスの使い方だけでなく、買い方も買えつつある。MVNOが広がることで、モバイルの新潮流が開けるのではないだろうか」と、今後への期待を寄せていた。
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