デジタル・エンターテイメント・グループ・ジャパン(以下、DEGジャパン)主催の「第6回DEGジャパン・アワード/ブルーレイ大賞」は、昨年1年間に発売されたBlu-ray Dsicの中から、BDの特長を生かした作品を選出するアワードだ。前回に続き、審査委員長を務めたAV評論家・麻倉怜士氏に注目作品を紹介してもらおう。
ベスト高画質賞・企画映像部門「NHKスペシャル 世界初撮影!深海の超巨大イカ」
——今回はベスト高音質賞からです。
麻倉氏: 「ベスト高画質賞・企画映像部門」は「NHKスペシャル 世界初撮影!深海の超巨大イカ」が受賞しました。この作品は、近接撮影で、しかもライトをあびたイカの映像が撮影できたということ自体がすごいと思いました。さらにイカの肌の質感も視聴者に驚きを与えます。ドキュメンタリー作品なので他の作品と同じ尺度では語れませんが、よくここまでの現場の臨場感を伝えることができたと思います。単にイカの映像だけではなく、その場の緊迫感や高揚感も感じさせられる映像と音声になっていた点も含め、企画映像部門として高く評価されました。取材班の努力に経緯を表して、という部分もありますね。
ただ、ほかのノミネート作に水樹奈々さんのライブが入っていたりと、ジャンルが全く異なる作品がノミネートされているのは、少し問題かもしれません。これはメーカーの都合によるもの。例えば良い音楽作品が複数あると、一方を別のジャンルにノミネートしたりするため、このようなことが起きます。私はベスト高音質や高画質賞とは別に「ライブミュージック部門」を作り、「企画映像部門」はドキュメンタリーなど企画性を生かした作品にフォーカスするべきだと考えています。
ベスト高画質賞・アニメ部門(TV・その他)「スノーマンとスノードッグ」
麻倉氏: 新設された「ベスト高画質賞・アニメ部門(TV・その他)」には、3作品がノミネートしました。「COPPELION vol.1」は、超ミニの女子高生の姿と荒廃した東京のコントラスト感がダイナミックです。トータルで優れた作品です。「凪のあすから」は、CGらしい透明度の高い映像でした。
対してスノーマンは、パステル画が映像になったかたちで、全く違うアプローチでした。ご存じ通り、「スノーマン」は30年前の名作のリメイクです。前回はVHS時代でしたが、今回はBDとなり、静謐(せいひつ)な映像とダイナミックな躍動感の対比が素晴らしいと感じられます。そういった画作りとパッケージにしたときのBlu-ray DIscの良さ、5.1ch音声の方向感など、トータルとしてアニメの新境地を切り開いた作品といえるでしょう。
ベスト高画質賞・アニメ部門(洋画)「クルードさんちのはじめての冒険」
麻倉氏: 「クルードさんちのはじめての冒険」は面白い画作りです。個々の人物や動物の毛並み、背景の緻密(ちみつ)さに対し、キャラクターはあまり緻密には描かれていない。のっぺりとしいているのです。しかし、それが妙に作品性にうまくあい、ユニークな世界観を作り出すことに成功しています。その妙技が高く評価されたということです。
ノミネートされたほかの2作品も素晴らしいものでした。「モンスターズ・ユニバーシティ」は、ものすごく精密なCG。ここまで情報と質感がかき込まれたCGは史上初ではないでしょうか。ピクサーは作品ごとに切り口を変えますが、質感や影の表情がよりリアルになってきた歴史があります。今回はさらに精密さに徹底していました。ここでは受賞を逃しましたが、審査員特別賞に返り咲いたのも納得でしょう。
もう1つの「ファンタスティックプラネット」は、ハリウッド映画とは対照的なヌケが悪く、ダークな作品ですが、これもワン・アンド・オンリーの作品性です。この3つの中では作品としてトータルに時代を切り開く力を感じさせた「クルードさんちのはじめての冒険」が上回ったということです。
ベスト高画質賞・アニメ部門(邦画)「009 RE:CYBORG」
麻倉氏: 「009 RE:CYBORG」はCG作品ですが、見え方はセル画調です。色の階調や透明感といった巧みさが高く評価されました。これはMGVCエンコードですが、評価時点ではMGVCデコードでは再生していません。それでもどこまでも抜けていくような質感の伸びがすばらしい。
009はコンピューター制作で近代技術の総決算みたいな作品ですが、ほかのノミネート作——例えば「紅の豚」には人間味あふれるタッチと動きのデフォルメ感、確立されたジブリトーンがあります。今回は切り口の新しさで高く評価された「009 RE:CYBORG」が受賞しましたが、個人的には「紅の豚」もすばらしいと思いました。
ベストレストア/名作リバイバル賞「シンドラーのリスト」
麻倉氏: これは本当に素晴らしいと思いました。カラーの作品はコントラストや階調、色といった要素が絡みますが、白黒作品は光と影だけです。パレットが少なく、カラーより逆に難しいところもあります。しかし「シンドラーのリスト」はレンジ感も広く、白黒であっても現場にいるようなリアルな映像です。
有名な“ユダヤ人狩り”のシーンは、女の子の歩みとともに画面が切り替わっていくのですが、全体の白の中で、その子の服だけにエンジ色の淡いパートカラーが付き、とくに印象的な場面ですが、レストアにより、さらに印象的になりました。ノミネート作品「ハロー・ドーリー!」も「シンドラーのリスト」と同様、4Kマスターの作品で、こちらは対照的にすごく色が多く、登場人物の服も絢爛(けんらん)豪華な色でした。しかし今回は「シンドラーのリスト」はベーシックな白黒をここまで直したことが評価されました。
Copyright© 2014 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.