政府や自治体などが公開する行政データをはじめとした、いわゆる「オープンデータ」の利活用によって新たな価値を創出しようとする動きが盛り上がりを見せている。
2014年2月22日には、世界100カ所以上、国内31カ所で「インターナショナルオープンデータデイ」が同時開催された。同イベントは、世界中の公共機関などが取り組むオープンデータ政策をサポートし、公共データ利用を促進するためのもの。日本では、昨年と比べて開催都市が約4倍に増えたこともオープンデータに対する期待値の高さがうかがえる。
そうした中で、いち早くオープンデータの利活用に取り組んできた自治体の1つが、石川県金沢市だ。金沢市では現在、観光や文化・芸術、公園、防災施設など2000件を超える施設情報をCSV(Character Separated Values)形式およびAPI(Application Program Interface)にて公開。公共データを二次利用可能な形で提供し、民間事業者のWebサービスなどに活用してもらうことで、市民の利便性向上や地域の活性化を図りたい考えである。
スマホアプリコンテストがきっかけに
金沢市がオープンデータに注目するきっかけとなったのは、同市が2011年から実施するスマートフォンのアプリコンテストである。元々このコンテストは、外国人を含めた観光客に向けて役立つ情報を提供したり、金沢の魅力をPRしたりするスマホアプリを民間企業が開発することを狙いとしてスタートした。あるとき、コンテストに参加したベンチャー企業の若手経営者と山野之義市長とのランチミーティングにおいて、スマホアプリを作る上で自由に使える観光関連データが少なくて苦労したため、自治体が所有するデータを整備して提供してほしいという要望があった。
時を同じくして、金沢市の公式スマホアプリを立ち上げる計画があった。対象とするユーザーは主に市民で、彼らが日々の情報収集のために活用できるアプリを検討していた。しかし、市有施設を案内するような情報がほとんどなかったため、先述した若手経営者からの要望も踏まえて施設情報をオープンデータとして二次利用可能にした。
公式スマホアプリは2013年1月にリリース。現在までに約7000件のダウンロードがあったという。この公式スマホアプリによって、金沢市のオープンデータへの取り組みが一気に加速したといえる。「当初は観光客をターゲットにして、AR(拡張現実)でいろいろなコンテンツを見せるという案もあったが、やはり市民向けのサービスや情報を集約したものが必要だということになった。結果的にターゲットを絞り込んだことでオープンデータにもつなげられた。今や整備したデータは二次的、三次的に活用されている」と、金沢市 市長公室 情報政策課 ICT推進室長の松田俊司氏は力を込める。
その盛り上がりの表れとして、2013年のスマホアプリコンテストでは、新たにオープンデータ部門を設けた。グランプリを受賞したのは、防災施設までの道案内アプリ「かなざわ避難支援ナビ」。気象庁から注意報や警報などが発令された際、それを端末に通知するとともに、発令された情報に対して施設情報のオープンデータを利用して最適な避難所へのルートを紹介するというものである。同課 ICT推進室 主任理事の神田現氏は「こうしたコンテストが好例だが、地元企業もオープンデータを活用してどうやって自分たちのビジネスに結び付けていくか、徐々に取り組み始めている」と説明する。
ごみ出し情報を住民が容易にキャッチ
一方、金沢市におけるオープンデータ関連の取り組みとして、「Code for Kanazawa(CfK)」の活動も無視できないだろう。CfKとは、行政や民間企業の影響を受けずに中立・公益の立場から、市民課題を解決する仕組みや方法を開発する組織である。CfKのモデルとなっているのが、米国の非営利団体「Code for America」だ。Code for Americaでのオープンガバメントの取り組みを、地元のITベンチャー企業であるアイパブリッシングの福島健一郎社長(CfK代表)などが共感し、2013年7月にCfKが発足した。なお、そのほか日本国内には、一般社団法人「CODE for Japan」や、福井県鯖江市の「CODE for SABAE」、福島県会津若松市の「CODE for AIZU」がある。
CfKが市民の声を基に具現化したソリューションの1つが、2013年9月にリリースされたWebアプリ「5374.jp」だ。ユーザーが住んでいる地域において、いつ、どのごみが収集されているのかという情報を、アプリで分かりやすく示してくれるというシンプルなもの。使われているのはWeb上に公開されているデータで、それらのデータやアプリ全体の使い勝手については、金沢市のごみ収集を所管する部署が事前に確認した。また、住民から市に寄せられる質問などを適宜アプリのコンテンツに反映するなどして品質の向上を図っている。
ソースコードはオープンになっているため、北海道札幌市や東京都渋谷区、沖縄県石垣市など、全国のほかの自治体にも横展開されているのだ。
自治体の“カベ”
このように、広がりつつある金沢市のオープンデータ利活用。その成功要因について、松田氏は「自治体の担当者だけが取り組んでいても駄目。例えば、市長が積極的だったり、けん引する市民団体がいたりすることが重要なのだ」と述べる。
しかし一方で、今後に向けて課題も少なくないという。その1つが自治体同士の“カベ”である。例えば、施設情報に関して、現在オープンデータとして公開しているのは、あくまでも金沢市が保有する施設だけ。実際、市内には、兼六園や金沢城公園をはじめ、石川県が管理する施設や、民間が持っている施設もある。「オープンデータに関して、県とは勉強会などで情報交換しているが、現実的にはまだこれからといった状況だ」と松田氏は話す。
それを打破するきっかけになりそうなのが、来春の北陸新幹線開業である。現在、開業に向けて、観光客誘致などで石川県と周辺の市町村で共同の取り組みも始まりつつある。「取り組みが進めば、各自治体が持つデータの流通についても議論がなされるだろう。まさにオープンデータにつながる動きが起きている」と松田氏は期待を込めた。
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