経済産業省が2月25日に公表した「エネルギー基本計画」の原案では、冒頭の「はじめに」の部分が大幅に加筆された。その中で政府の強い決意とエネルギー政策の考え方を示している。まず原子力発電所の事故を反省することから始まる。
「震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直す。原発依存を可能な限り低減する。東京電力福島第一原子力発電所事故で被災された方々の心の痛みにしっかりと向き合い、寄り添い、福島の復興・再生を全力で成し遂げる。ここが、エネルギー政策を再構築するための出発点であることは言を俟たない。」
事故の賠償や汚染水対策、使用済燃料や最終処分の問題に関しては、国が前面に立って解決していくことを宣言したうえで、電力会社の責任を改めて強調した。
「原子力安全は、本来、事業者自らも安全向上対策を講じることによって確保されていくものである。事業者自身がこの重要な責務を担い、安全を競い合い、原子力安全文化を醸成する。国民のみならず世界中が厳しい目で注視していることを決して忘れてはならない。」
続けて原子力に依存しないエネルギーの安定確保に向けて、以下のような方針を掲げている。
「我が国が目指すべきエネルギー政策は、世界の叡智を結集させ、徹底した省エネルギー社会の実現、再生可能エネルギーの導入加速化、石炭火力や天然ガス火力の発電効率の向上、蓄電池・燃料電池技術等による分散型エネルギーシステムの普及拡大、メタンハイドレート等非在来型資源の開発、放射性廃棄物の減容化・有害度低減など、あらゆる課題に向けて具体的な開発成果を導き出せるような政策でなければならない。」
最後に崇高な宣言で締めくくった。
「世界的に見れば、エネルギーの安定的確保は人権、環境など社会そのものの在り方に関わる人類共通の課題である。我が国の挑戦が、世界の子供たちの将来を希望に満ちたものとする、そのような貢献となることを目指したい。」
具体策は3年後の次回改定に持ち越し
ところが残念なことに、その後に70ページ近くを費やして書かれた基本計画の中身は抽象的な表現に終始している。今後のエネルギー政策で最も重要な電源構成に関しては、次のような記述と図を示しただけである。
「電力供給においては、地熱、一般水力(流れ込み式)、原子力、石炭といった安定して安価なベースロード電源と、需要動向に応じ出力を機動的に調整できる天然ガスなどのミドル電源、石油などのピーク電源を適切なバランスで確保するとともに、再生可能エネルギー等の分散電源も組み合わせていくことが重要である。」
実行スケジュールを明記した形の新しい政策が見られるのは、メタンハイドレートなど国産資源の開発に関するものにとどまる。そのほかの点は旧・民主党政権時代に掲げた目標を列挙しているに過ぎない。
国の基本計画を策定したというよりも、エネルギー市場の動向をまとめた報告書の印象が強い。それでも政府は新しいエネルギー基本計画として採用する方針だ。2月25日の閣議後に開いた「第2回原子力関係閣僚会議」の場で、原子力に関する部分は了承された。今後さらに多少の修正を加えて、3月中に基本計画全体を閣議で決定する。
結局のところ、日本のエネルギーの方向性を示す指針にはなりえない。「我が国の挑戦が世界の子供たちの将来を希望に満ちたものとする」とした宣言からは程遠い内容で決着する。世界に誇れるようなスマートなエネルギー基本計画は少なくとも3年後の次の改定まで待たなくてはならない。
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