新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2014年2月17日、5年にわたり実施してきた「生活支援ロボット実用化プロジェクト」に関する記者説明会を開催し、プロジェクトの成果を報告した。このプロジェクトに参画した2社のロボットが同日、世界で初めて国際安全規格「ISO 13482」の認証を取得したということで、当初の予定にはなかった認証式も急きょ、この場で行われることになった。
生活支援ロボット実用化プロジェクトは、その名称の通り、生活支援ロボットの実用化を目指して、NEDOが2009年度から実施してきた事業。5年目となる2013年度がその最終年度である。この記者会見には、NEDO 技術開発推進部長の久木田正次氏と、プロジェクトリーダーを務めた産業技術総合研究所(産総研) 知能システム研究部門長の比留川博久氏が出席し、説明にあたった。
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生活支援ロボが普及しない理由
急速に進む少子高齢化により、日本社会では労働者不足の深刻化が懸念されている。不足する労働力を補う切り札として、生活支援ロボットへの期待が徐々に高まりつつあるが、まだ参入するメーカーも少なく、広く普及するには至っていない。
その「原因」としてよく言われているのが、人間に対する安全性の問題である。人間との接触が限定的な産業用ロボットとは異なり、一般社会の中で活動する生活支援ロボットは不特定多数の人間とさまざまな条件下で関わりを持つことになる。もしそのロボットのせいで誰かがケガをしたらどうするのか、万が一死亡事故でも発生したら……メーカーが危惧するのは当然である。
とはいえ、道具である以上、100%の安全性はあり得ない。現に、自動車では毎日のように死亡事故が起きている。それでも、自動車を「危ないから禁止にしよう」とならないのは、それが「圧倒的に役に立つからだ」と比留川氏は指摘する。リスクは確かに存在するが、ベネフィット(利益)の大きさに比べて妥当な範囲で小さければ、社会では受容されるのだ。
自動車に比べると、家電製品はローリスク・ローベネフィット。可能性はゼロではないものの、生命に関わるような大事故はめったに起きない。一方、生活支援ロボットは、このリスクとベネフィットの関係において、どのような位置付けとなるか。これについて、比留川氏は「自動車と家電製品の中間くらいになるのでは」と見る。
しかし、自動車や家電が産業として長い歴史を持ち、社会に広く受け入れられているのに対し、生活支援ロボットはこれから立ち上がろうとしている新規産業である。自動車や家電で既に確立されている安全性に関する基準がないのが大きな問題となっていた。
安全性を高めようとするあまり、コストが高くなり過ぎて、誰も買えないような値段になってしまっては本末転倒。製品として市場に出す以上、どこかで妥協する必要があるのだが、どこまで安全対策を施せば「十分」だといえるのか、分からなかったのがメーカーとして製品を出しづらい理由だった。
日本が主導した安全規格が誕生
この傾向は、特に大企業において顕著だ。久木田氏は「一度事故が起こった場合には、企業そのもののブランドを毀損(きそん)してしまう。市場が小さいからという側面もあるが、製品を投入することをちゅうちょする状況にある」と指摘。比留川氏も「米国はベンチャー企業が多いが、日本は大企業が中心。ベンチャーにはブランド毀損のリスクもないので、このままでは日本が負ける可能性がある」と危機感を隠さない。
そこで始めたのが、生活支援ロボット実用化プロジェクトである。同プロジェクトで実施したのは以下の3点。
- 生活支援ロボットの安全性基準、試験方法、認証手法の確立
- それに適応した生活支援ロボットの開発
- 安全性基準の国際標準化提案、試験機関・認証機関の整備
プロジェクトがターゲットとするのは、「移動作業型」「装着型」「搭乗型」の生活支援ロボットである。米iRobotの掃除ロボット「ルンバ」のような小型ロボットは含まれない。「何kg以上」というような明確な区切りはないものの、より大きなロボットが想定されているようだ。
プロジェクトでは、上記1〜3を並行して進め、2014年2月1日には、日本の提案を採用する形で、国際標準化機構(ISO)の安全規格「ISO 13482」が正式発行された。現時点で世界唯一の試験施設である「生活支援ロボット安全検証センター」も茨城県つくば市に設置されており、第三者による安全検証試験と、第三者による安全性認証が行える体制を整えた。
2013年2月には、CYBERDYNE(サイバーダイン)の「ロボットスーツHAL 福祉用」が、ドラフト版(ISO/DIS 13482)による認証を取得。そして2014年2月17日には、正式版による世界初の認証がパナソニックの「リショーネ」とダイフクの「エリア管理システム」に与えられた。
ISO 13482が対象とするのは、前述のように移動作業型、装着型、搭乗型の3タイプ。ただし、時速20km以上で走るロボット、おもちゃ、海事・飛行ロボット、産業用ロボット、医療用ロボット、軍事ロボットなどは適用外とした。
安全性に関する国際標準ができたことで、安全対策が適切であることの「証明」が可能になる。これにより、大企業の製品投入を後押しするのがプロジェクトの狙いであったわけだが、「そもそもどうやって安全設計をやればいいのか、分かっていない中小企業も多かった。安全規格ができたことで、開発しやすくなり、参入が容易になったと肌で感じている」(比留川氏)と、中小やベンチャーにとってのメリットも大きいようだ。
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