「加賀百万石」で知られるように、江戸時代には日本で有数の大都市として栄華を極めたのが、現在の石川県金沢市だ。その古都のIT産業に今、変化の波が押し寄せている。
2015年春に開業予定の北陸新幹線によって、東京〜金沢間は約2時間半で行き来することができるようになる。金沢を含む北陸地域が“身近な存在”になることで、当地でのデータセンター利用やニアショア開発の機運が高まっているという。
前者について、同地域で電力サービスを提供する北陸電力は、全国で最も電気料金が安いことに加えて、有感地震が少ないエリアでもあるため、災害時における首都圏のBCP(事業継続計画)/バックアップ向けデータセンターの設置場所としてこれまでも関心が高かった。来春以降、首都圏からの交通の便が向上することで、さらなる注目を集めているという。
後者に関しては、東京の大手メーカーやSIerが、アジアにオフショア開発を出すと同時に、ニアショアとして石川県のソフトウェア会社にシステム開発案件を依頼するニーズが増えているそうだ。その理由について、石川県情報システム工業会(ISA)の副会長を務める、小清水良次システムサポート社長は「石川県にはITの専門資格を持つ技術者が多い。例えば、オラクルデータベースの資格を保有する社員数で全国1位、2位の企業が県内にある。そうした豊富な人材が強みとなっているのだ」と説明する。
観光クラウド
ISAとは、県内約120社の情報サービス企業が集まり、技術交流や人材育成支援などに取り組む一般社団法人。システムサポートのほか、アイ・オー・データ機器やEIZO、PFUなど地元の有力IT企業に加えて、北國銀行といったユーザー企業も参画している。
現在、ISAが注力する取り組みの1つが、「観光クラウド」である。従前からISAでは、地方で生成する情報は地方が管理すべきという発想の下、ローカルクラウド研究会を立ち上げ、観光情報などを一元的に管理、発信する仕組みを検討していた。「例えば、観光客向けの情報に関して、現在は、県や市、あるいは施設それぞれが個別に発信している。その結果、本当に知ってほしい情報を観光客に届けられていないのが現状。これをISAがまとめ役として一元管理することで、効果的な情報発信につなげるとともに、運用経費の削減などを図ることが可能になる」と小清水氏は狙いを語る。
イメージするのは、観光客向けの総合ポータルサイト。観光地の側から一方的に情報を発信するのではなく、観光客がソーシャルメディアなどで発信する情報も蓄積できるようなプラットフォームを構築する。これによって新たな観光客の呼び水にするとともに、金沢へのリピーターも増やしていけるような基盤にしたい考えだ。
小さなソフトハウスから抜け出せない
上述したように、石川県のITビジネスを取り巻く環境は目まぐるしく変化しようとしているが、石川県のIT産業自体についてはどのような現状なのか。小清水氏は「IT企業の70%以上が従業員20〜30人で、小さなソフトハウスが集積しているのが石川県の特徴」だと述べる。
一方で、ソフト会社の社数は隣接する富山県や福井県の倍近くもあるが、その両県と異なりソフト会社に上場企業がない。ここに石川県のIT産業における潜在的な課題が見えるという。
「石川県は昔から伝統的に大手メーカー系が強い。地元の顧客は製品・サービスの性能や価格よりも、付き合いを大切にする。たとえ画期的な提案があったとしてもだ。例えば、ベンチャーがマーケットに食い込もうとしても、なかなかメーカー系に太刀打ちできない。ベンチャーが成長するには県外に飛び出さないとならない」(小清水氏)
もちろん、顧客は是が非でもメーカー系にとこだわっているわけではないが、現実的にはベンチャーを含めた地元のソフト会社は厳しい状況にあるようだ。
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