儲からない国内ITベンダー
日本のIT産業には国際競争力がないと言われて久しい。過去には国産メインフレームが存在感を発揮していた時代や、ラップトップPCが隆盛の時代もあったが、現在では、多くのハードウェア製品が海外製で占められる。ソフトウェア製品については、OS、ミドルウェア、アプリケーションいずれの分野においてもグローバル標準といえる国産製品はほぼ皆無。サービスに関しては、一部の分野、例えば、通信サービス市場におけるソフトバンクやNTTコミュニケーションズ、あるいは情報サービス市場におけるLINEなどが存在感を発揮している。
しかし、開発・オペレーションといった役務提供については、人件費の高い日本市場は不利である。アウトソーシング、クラウドサービスといったIT産業の本流といえる市場においても、海外で日本の大手ベンダーの話題が聞かれることはほとんどない。
グローバル市場で国内ベンダーが存在感を発揮していない。また、日本においてもIT事業が高収益ビジネスや投資対象になっていないことは、業界の人間なら誰しも頷くところであろう。これには、IT業界は重労働でサラリーが低く社会的ステータスも低い、日本はもともと加工貿易立国でソースコード開発に向かない、英語が苦手で自己主張が弱い国民性が問題、などとさまざまな理由が聞かれる。原因は多々あろうが、結果として日本のITベンダーの収益性が芳しくないのは事実だ。
北米では、大手SIベンダーであるIBM、Accenture、CSCの営業利益率はおおよそ15%前後であり、Oracle、SAPのような大手ソフトウェアベンダーでは35%前後の高利益率を維持している。これに対して、日本の名だたるITベンダーはどうだろう。NTTデータ(6.4%)、日立製作所(4.3%)、NEC(3.7%)、富士通(2.3%)と営業利益率は桁がひとつ異なるのが現状だ(総務省「平成25年版情報通信白書」に基づく)。大手ベンダーがこのような状況にある中、中堅・中小ベンダーにおける収益性は望むべくもない。
中間流通業者の介在
こうした市場情勢となった原因の1つは、日本のIT市場の構造的な特徴にあると筆者は考えている。国内IT市場は、供給元から最終消費に至る過程が長くて複雑だ。製造元から国内企業が直接製品や技術を調達するのは稀で、通常は中間流通業者が多く介在する。すなわち、情報システム子会社、総合ベンダーなどのプライム・コントラクター(元請け)に発注された案件は、委託先(大手ベンダーの子会社など)やリセラー/パートナーを経由する。製造元は特定の商品の供給とサポートを担う(図1)。
とりわけ国内大手企業における情報システム子会社保有率の高さ(約5割)は、他国にあまり類を見ない。企業がITを調達する際、3社も4社もベンダーを経由することが珍しくない。
中間流通業者の介在は、「オーバーヘッドの増大」や「透明性の減退」を引き起こし、ユーザー企業に不利益をもたらす場合がある。製造元の実質的な提供価値には、オーバーヘッド・コスト、例えば利益や販管費が上積みされて供給される。そのため、製造元の開発ベンダーが数百万円で開発したソフトウェアが最終的に億円単位で取引されるという、信じられないような事態も起こり得る。
また、連鎖的な再委託は、要求事項の伝達や連絡、報告などでの「伝言ゲーム」を引き起こし易い。委託先が絡んだシステム障害や情報漏えいの事故が多いのも、この問題が背景にある。大型案件で元請けのベンダーから提示される見積価格の内訳が不明確といった例も枚挙に暇がない。
欧米のITアナリストや日本に新規参入するITベンダーの上級職と会話をすると、日本市場のこうした事情が認識されていないことが多い。欧米の大手ユーザー企業は、HPやOracleといった製造元のベンダーと直接やり取りをするのが普通で、中間事業者を利用する機会は限られる。ユーザー企業とITベンダーとの技術交流や人材流通も盛んで、ベンダーの専任者よりも優秀な技術者がユーザー企業に存在することもある。そもそも海外企業はIT部門の正社員も多く、大手企業になると数千人規模というケースも珍しくない。国内企業のIT部門とは質量ともに異なるのが実態だ。
一方、日本においては、製造元と直接取引するよりも中間流通網を経ることが圧倒的に多い。だから、外資ベンダーが日本のIT市場を攻略しようと思えば、流通網を知らねば話にならない。誤解を恐れずに言えば、少なくとも一昔前までは、外資ベンダーが日本でビジネスをすることは、良質の販売パートナーを獲得することと同義だった。
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