東京大学 ナノ量子情報エレクトロニクス研究機構の荒川泰彦教授、マーク・ホームズ特任研究員らは2014年2月12日、位置制御されたGaN(窒化ガリウム)系ナノワイヤ量子ドットを用いて、300K(27℃)の室温で単一光子の発生に成功したと発表した。今回の開発成果は、量子暗号通信や量子コンピュータなど、量子情報処理システムの実用化に向けた研究に弾みを付ける可能性が高い。荒川氏は、「位置制御されたGaN系量子ドットを用いて、室温で単一光子の発生に成功したのは世界でも初めて」と話す。研究成果の論文は、米化学会(ACS)の「Nano Letters」(2月12日付)にも掲載されている。
単一光子を発生させる研究は、さまざまな大学や研究機関で行われている。しかし、これまでは液体ヘリウムなどを使った極低温の環境下で行われていたり、室温動作を実現することができても、量産が難しいダイヤモンドの結晶欠陥を利用したりしていた。このため、実用化という面では多くの技術的課題を抱えているのが現状だ。
荒川氏を中心とする研究グループは、早くからGaN系を用いた単一光子源の研究を行ってきた。2006年には200Kで単一光子の発生に成功しており、さらなる高温動作に向けて結晶品質を高める成長技術と、単一量子ドットの位置を制御する技術の開発に取り組んでいた。そして今回、位置を制御したGaN系ナノワイヤ量子ドットの形成技術を開発し、この技術を用いて製造した量子ドットにより、室温における単一光子の発生に成功した。
GaN系ナノワイヤ量子ドットの形成は、サファイア基板上にAlN(窒化アルミニウム)を結晶成長させた後、電子線リソグラフィやMOCVD(有機金属気相成長法)技術を用いて、GaNをナノワイヤ状に選択成長させる手法を用いた。「ナノワイヤの高さは500nm以上であれば問題ない」(荒川氏)という。成長させたGaNナノワイヤ表面は、AlGaN(窒化アルミニウムガリウム)で被覆する。その先端部に縦が約1nm、横が約10nmのGaN量子ドットを形成し、それをAlGaNでさらに被覆するナノワイヤ構造とした。微小な量子ドットを実現したことで、発光の線幅が狭くきれいな発光スペクトルが得られるという。
開発したGaN系ナノワイヤ量子ドットを用いて単一光子源の評価を行った。単一光子源からの光子数の時間的バラツキを測定する光子相関測定において、低温から室温までほぼ一定の高い性能を得られることが分かった。300Kでも純度の高い光子を発生していることを確認した。
同研究機構では今後、単一光子源の品質を一段と高めていくとともに、回路の集積化に向けてさらなる高温動作(最低350K)への対応、単一光子源のアレイ化などに取り組んでいく計画である。
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