ワイヤレスジャパン 2013のカンファレンスで、ファーウェイ・ジャパン 副社長 ソリューション&マーケティング本部長のゾォ・ミンチェン(周明成)氏が、「次世代通信技術を核としたファーウェイのモバイルインフラ戦略について」というテーマで講演を行った。
1人あたりのデータ通信量は日本が多い
2013年現在、世界的に見てもスマートフォンの普及が加速しており、それに伴ってモバイルブロードバンドの利用者も急増している。「今後10年間で、モバイルブロードバンド(携帯電話)への新規加入者は40億を超えるとみられている」とゾォ氏。特に日本のユーザーはデータ通信量が多く、Huaweiの調べによると、ユーザーあたりの平均月間トラフィックは2012年が1480Mバイトで、2017年は7866Mバイトに伸びることが見込まれている。これは北米や欧州を上回る数字だ。
こうした通信量の増加がネットワークに与える影響は当然ながら大きく、「2020年には、モバイルブロードバンドの接続件数は240億になるだろう」とゾォ氏は話す。加えて、「シグナリング(制御信号)に与える影響も重要だ」と同氏は続ける。「昨年、少なくとも8社の通信事業者が、制御信号が過密になってサービス提供が困難な状況に陥った。これはデータトラフィックが伸びているためで、2020年には、2010年と比較して500倍になるとみられている」。日本でも、特にLTEが普及してから通信障害の頻度が増えており、ネットワークの課題が浮き彫りになっている。
ゾォ氏はその課題の一因として「ネットワークが複雑化していること」を挙げる。具体的には、1つの事業者に複数の周波数帯が割り当てられている状況だ。例えばNTTドコモは800MHz帯、1.5GHz帯、1.7GHz帯、2.1GHz帯で通信サービスを提供している。また通信方式についても、日本ではLTEが普及しつつあるとはいえ、3G(W-CDMAとCDMA)の通信サービスも継続している。このように複数の周波数帯や通信方式でネットワークを構築しようとすると、より多くの装置を増設する必要があるが、設置スペース増につながり、レンタル代や保守コストにも跳ね返ってくる。このほか、環境面の問題として「場所によってトラフィック量の差があること」「基地局増加に伴う電波干渉」「カバレッジが不完全であること」をゾォ氏は挙げる。
通信事業者のサービスに依存しない「OTT(Over The Top)」によるサービス——日本では「LINE」や「カカオトーク」などがそれに当たるが、これらがネットワークに与える影響も大きい。「中国では『WeChat』の加入者は4億に到達し、LINEの加入者は世界で1億を突破した。韓国では7000万人がカカオトークを使っている。OTTの役割は、今後さらに大きくなっていく」(ゾォ氏)
安定したネットワークで高速通信を実現するには
ここまでに挙がった課題は、Huaweiのソリューションを使えば解決できる——というのが、講演の主なテーマだ。
1つ目のソリューションが、異なるセル、周波数、通信方式の境界における通信品質の差をなくす「No-Edge」と呼ばれる技術だ。LTEネットワークでは、セルの境界(セルエッジ)で通信速度が低下しやすいが、HuaweiのNo-Edgeソリューションを活用することで、あたかもセルエッジがないかのように、高速な通信が可能になるという。No-Edge、つまり「いつでもどこでも」安定していて、かつ高速な通信を実現するためには「HetNet」「協調」「キャリアアグリゲーション」が重要だとゾォ氏は続ける。
HetNet(Heterogeneous Network)は、マクロセルの中に、ピコセルやフェムトセルなどの小型基地局を混在させたネットワークのこと。Huaweiは、小型基地局の中でも業界最小を実現したという「アトムセル(AtomCell)」を供給しており、ゾォ氏は「どこでも望む場所に装置を置ける」と胸を張る。屋内のカバレッジを広げる策として、ビル内のイーサネットケーブルを用いた「ランプサイト(LampSite)」という技術も紹介した。加えて、セル間の電波干渉を防ぐため、そしてトラフィックの負荷や無線の質に応じて最適な基地局を選ぶために、複数の基地局を“協調”させることも重要になる。Huaweiの技術では、「非常に混雑した都市部では、1ミリセカンド(1000分の1秒)で協調ができる」という。複数の搬送波を束ねて通信速度と周波数の利用効率を上げるキャリアアグリゲーションは、ユーザー体験を究極のものにするとゾォ氏は協調した。
ソリューションの2つ目がインフラの「簡素化」で、基地局装置のBBU(ベースバンドユニット)をソフトウェアで定義することで、1つの装置でGSM/UMTS/FDD-LTE/TD-LTEといった複数の通信方式をサポートできる。これは設備コストの削減にもつながる。
3つ目が、ユーザーのニーズに柔軟に対応する「オンデマンド」。ゾォ氏は、ネットワークの状態を可視化することが重要で、「Networker」というソフトウェアソリューションを開発したと説明する。Networkerを利用することで、アプリ提供者が現在のデータ転送速度やネットワークへの負荷、位置情報などがリアルタイムで分かり、より広い帯域幅の利用や使用データ量の追加、ワンタッチ購入による一時的な通信速度の向上といった、契約内容のアップグレードをユーザーに対して促せる。NetworkerのオープンAPIを活用することで、サードパーティが新しいオンデマンドサービスを提供できるとしている。「オンデマンドによってネットワークの収益性が高まり、通信事業者に利益をもたらす」とゾォ氏はメリットを語った。
4つ目が「LTEの進化」だ。LTEの次世代通信規格として、現在「LTE-Advanced」の商用化に向けた開発が進められているが、そのさらに次の世代である「LTE-B」「LTE-C」も存在する。LTE-BについてHuaweiはすでに研究を進めており、「ドコモ、Huawei、Samsungが共同で研究をしている」とゾォ氏。LTE-Advancedではネットワークのキャパシティが現在の10倍になる見込みだが、LTE-Bでは30倍、LTE-Cでは1000倍になることが見込まれる。さらにゾォ氏は、LTE-Bの特長は「FusionNet」だと説明する。このFusionNetでは、例えば携帯電話ユーザーが車に乗りながら高速で移動している最中でも、ハンドオーバーを行わず、安定したネットワークで、より高速な通信を利用できるようになるという。
ゾォ氏は最後に、モバイルブロードバンドの未来に向けたHuaweiの取り組みを説明。モバイルブロードバンドの主要技術を開発する「2012 LAB」という研究施設を設立し、ここには1万2000のエンジニアが従事している。次世代通信技術の「5G」の研究も行っており、Mobile World Congress 2013では、「UltraNode」と呼ばれる基地局装置で50Gbps通信のデモも実施した。Global JIC(グローバル・ジョイント・イノベーションセンター)では各国の通信事業者と協力して、地域ごとの要望を研究している。
ネットワークのシンプル化による設備コスト削減、No-Edgeによる究極のモバイルブロードバンド体験、収益性の高い「オンデマンド」——を講演のまとめとしたゾォ氏は、「将来に向けて、ともにモバイルブロードバンドの成功への道を切り拓いていきましょう」と締めくくった。
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