政府が策定した「エネルギー基本計画」の原案に対して、国民からのパブリックコメントが1カ月間に約1万9000件にものぼったことを、茂木経済産業大臣が1月10日の会見で明らかにした。経済産業省が内容の分析を進めているが、原子力発電の位置づけに関する反対意見が多数を占めることは想像にかたくない。
2012年に当時の民主党政権が「国民的議論」を通じて、原子力発電を2030年代までにゼロにする方針を決定したことは記憶に新しい。ところが自民党政権は方針を転換して、原子力発電を「安定して安価なベース電源」と位置づけるエネルギー基本計画の原案を2013年12月に発表した。この原案をもとに2014年1月中の閣議で正式に決定する見通しだったが、混迷状態から2月以降にずれ込む可能性が大きくなってきた。
主な要因は2つある。1つは政府内からも慎重論が出てきたことだ。内閣府の原子力委員会が1月9日に意見書を出して、経済産業省が策定した原案に8項目の注文をつけた。その第1項で「原子力発電を重要なベース電源に位置づけるとしたことについて、この判断に至った熟慮の内容を国民に丁寧に説明するべきである」と主張した(図1)。
もう1つの要因は2月9日に実施する東京都知事選である。元首相の細川護煕氏が「脱・原発」を掲げて立候補を決めた。同じく脱・原発を訴える小泉純一郎・元首相が支援する。都知事選の主要な争点に原発の問題が加わることは確実な情勢だ。
東京都には原子力発電所が立地していないとはいえ、東京電力が供給する電力の約35%を消費する立場にあり、原発の安全性に対する責任から逃れることはできない。さらに東京都は東京電力の第4位の株主でもあり、東京電力の経営に対して一定の発言力を持つ。
このため自民・公明の与党内部でも、原子力発電の重要性を強調するエネルギー基本計画の決定を急ぐべきではない、との意見が強まっているようだ。与党が推薦する候補者が都知事に当選すれば、予定通りエネルギー基本計画を閣議で決定して、原子力発電所の再稼働を推進することができる。
逆に細川氏が当選した場合には、日本の人口の1割以上を占める東京都民が脱・原発を支持したことになる。原子力発電が国民の意思に反したものであることを改めてクローズアップする結果になり、原案を見直す必要性が高まる。いずれのケースを想定しても、閣議決定は都知事選の後に持ち越さざるを得ない状況になってきた。
エネルギー基本計画は「エネルギー基本政策法」に基づいて政府が定めるもので、少なくとも3年ごとに内容を検討して、必要があれば変更しなくてはならない。前回は2010年6月の閣議で決定しており、すでに3年半以上が経過している。ただし我が国の将来に大きな影響を与える政策であるだけに、十分な時間をかけて検討することに問題はない。
基本計画の最も重要な目的は、エネルギーの需給を長期的に安定させることである。そのために電源別の構成比率の目標を具体的に明記してきた。2010年に策定したエネルギー基本計画では、原子力と再生可能エネルギーを合わせて2030年に約70%(2020年に50%以上)まで引き上げることを目標に掲げた。しかし福島第一原子力発電所の事故により、この目標は修正を余儀なくされている。
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