明治大学はこのほど、同大黒川農場(川崎市)でITを活用して行われているトマト栽培の様子を公開した。生育環境に関わるデータをリアルタイムに計測し、日本マイクロソフトのクラウドサービス「Windows Azure」上にデータを蓄積。計測・分析結果はタブレット端末で可視化され、使用する水や肥料の量を最適な割合で指示することができ、収量増加につなげられるという。
同プロジェクトは、同大と、M2Mプラットフォームを提供するルートレック・ネットワークスが中心になり、クラウドを担当するマイクロソフトとアプリ開発のセカンドファクトリーが協業した産学連携事業。ICT養液土耕システム「ZeRo.agri」により、センサーで収集したデータを活用し、農作物を管理・栽培している。
養液土耕栽培とは、収量を減らさずに灌水(かん水)量を減らす最も経済的な方法として1950年代にイスラエルで開発された農法。かんがいに肥料を混ぜた水を利用し、水と肥料を同時に必要な量だけ供給する。効率よく養分を吸収させることができるため水質汚染を抑え、必要な設備投資も少ないのが特徴だ。
ビニールハウスの中で計測しているデータは、日射量、気温、地温、水分、EC値(土壌の肥料濃度)の5つ。ビニールハウス内に備え付けられた無線内蔵データコントローラーで集約され、10分おきにクラウドサーバ上に計測結果を送信。各データはタブレット端末の専用アプリ上でグラフとして表示する。蓄積されたデータを元に、肥料の濃度や量をリコメンド。生産者はタブレット上で数値を指示するだけで指定された時間にかん水できる。最適な割合で肥料を供給することで、約2割程度の収量の増加や、品質の向上が見込めるという。
必要な設備は、ビニールハウス内や土壌に設置するセンサー、データをクラウドサーバに送信する無線内蔵コントローラと、ポンプや肥料配合を行うかん水システムで「水耕栽培と比較して低コスト」(同大の小澤聖特任教授)。黒川農場に設置したのは総額120万円程度の設備で、最大50アールまで利用できるという。
小沢特任教授は「親父の経験や勘を数字にしてせがれに伝えるシステム」と説明する。自身も長期休暇中や出張中に指示を出すためにツールを活用していると言う。「農業従事者の高齢化が進み、就業人口自体が減っていく中で、地球環境や地域との共生を考え、世代を超えてノウハウの伝達をするためにはICTを活用していくべき。植物工場のような人工的な管理ではなく、データにする部分と人の判断を折衷する」
日本マイクロソフトの加治佐俊一CTOは、Windows Azureを農業システムに活用したケースは世界的にも初めてのケースではないかという。「キーボードより拒否感が少なく操作が直感的なタブレットを使用することでより間口が広げられたと思う。クラウド環境もスマートデバイスも日々進化しているので、効率よく品質の高い作物を育てられるシステムを作っていきたい」と話す。
「単独で事業化を目指すより、4社で作り上げたプラットフォーム自体を広げていく」とルートレック・ネットワークスの佐々木伸一社長は意気込む。グローバル展開しているベンダーとも提携を予定しており「日本の農作物の品質は世界でも評価が高い。守るだけではなく攻めの姿勢で、日本式農業の在り方自体をグローバルに輸出できたら」とした。
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