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「生きた電池」を細菌で作る、電気を使わない廃水処理へ

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 全ての生物の基本構造となっている細胞。細胞はエネルギー源となる有機物などを取り込んで分解、そのときに生じるエネルギーを使って生きている。細かい手法は異なるものの、基本は細菌からヒトまで共通だ。このエネルギーを直接取り出すことができれば、「生きた電池」が作れるはずだ。

 東京薬科大学生命科学部教授の渡邉一哉氏のグループは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託を受けたプロジェクトにおいて、廃水を使って発電する「微生物燃料電池」の性能向上に成功した*1)。同プロジェクトには、東京薬科大学の他、東京大学と積水化学工業、パナソニックが参加している。

*1) NEDOの委託事業「グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発プロジェクト・微生物触媒による創電型廃水処理基盤技術開発」の成果として2013年5月29日に発表した。

 プロジェクトの問題意識は廃水処理に多大なエネルギーを投じている現状を変えたいというものだ。現在は酸素を好む細菌を多くの廃水処理施設で利用している。活性汚泥法と呼ばれる手法だ。活性汚泥法の課題は、廃水中に空気を吹き込む曝気処理が必要なことであり、ここで電力を消費する。

 今回開発した微生物燃料電池では曝気処理は必要ない。容量約1Lの開発品では、従来の活性汚泥法と同等の廃水処理速度を確認できた。処理内容は、水滞留時間9時間、有機物処理速度1.3kg-COD m-3−1というもの。

 加えて電池から電力が得られる。いままで電力を消費するだけだった廃水処理施設が発電所に変わる可能性がでてきたということだ。

なぜ電気がとれるのか

 微生物燃料電池の外観は図1の左側のようになっている。黄緑色の部分から下を廃水に入れる。反応の概要を図1の右側に示した。黒枠で囲った縦長の楕円形が細菌(発電菌)だ。細菌は有機物を取り込み二酸化炭素(CO2)を放出する。そのとき副産物として電子を外部に放出する。これを負極で拾い上げるという仕組みだ。

 なお、図1の右側で「M」「M」と書かれたものは、電子を受け取る物質であり、その物質が水中を伝わって負極に電子を受け渡している。このような反応も起こるということだ。図1には描かれていないが、負極と正極の間に電極が接触することを防ぐセパレーターを置いている。

yh20130603FC_image_530px.jpg図1 微生物燃料電池(左)と反応の概要(右)。出典:NEDO

 しかし、そもそもなぜ細菌から電子が出てくるのか。「ヒトが呼吸をするということは電子を酸素に捨てて、最終的に水に変えているということ*2)。高いエネルギーの電子を得て、低いエネルギーの電子を捨てなければならない。われわれの電池では酸素がない状態のとき、この低いエネルギーの電子を細菌がそのまま細胞外に放出する」(渡邉氏)。

*2) ヒトなどでは細胞内にあるミトコンドリアと呼ばれる細胞内小器官の内部でこの反応が起きている。グルコース(ブドウ糖)を二酸化炭素と水素イオン、電子に変え、この水素イオンと電子が酸素と結合して水ができる。

 この微生物燃料電池は20〜30℃で動作する。もともと廃水中で生活している細菌群に対して、適切な条件を与えることで、複数の細菌からなる集団を作り上げる。1〜2週間で菌相(細菌集団の構成)*3)が出来上がり、その後は負極以外の部分を交換可能だ。

*3) 渡邉氏によれば、有機物を直接分解する細菌や、分解生成物をさらに利用する細菌など役割分担があり、いったん菌相が確立すると連続的に発電できるという。

 微生物燃料電池の効率を高めるには、菌相の確立以外にも条件がある。細菌と負極の関係だ。細菌が負極に大量に密着していた方が電子を取り出しやすい。「細菌は負極に勝手に付着する。付着しやすい構造と材料を選択した」。

 「今回開発した微生物燃料電池はラボスケールのものだ。今後は性能を維持しつつ、さらに実用的なコストでスケールアップしなければならない。企業へ技術移転することで開発が進むと考える」(渡邉氏)。

 なお、渡邉氏は今回の発表以前から、自然界に分布する細菌を使った発電手法を作り上げている。「田んぼ発電だ」。「今回の微生物燃料電池と田んぼ発電の原理は同じだ。田んぼ発電では土の中に負極を埋め、正極を田の水中に置いた形になっている」。田んぼ発電では1m2当たり100mW程度の発電が可能だという。

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