「マイクロマウス」とは、手のひらサイズの小さな走行体に、複雑な迷路を走破する知能を備えた自立(selfcontained:動作に必要な機能を全て自分で持っていて移動できる)型ロボットだ。MONOistでは、2012年5月から連載「マイクロマウスで始める組み込み開発入門」をスタート。この連載記事でマイクロマウスの存在を初めて知った方も多いのではないだろうか?
マイクロマウスの歴史は古く、1977年にIEEE(米国電気電子学会)がマイクロプロセッサの可能性を検証するために「マイクロマウス競技」を提唱したのが始まりだ。この競技に出場するロボットがマイクロマウスである。
日本では、1980年にニューテクノロジー振興財団の主催で「第1回 全日本マイクロマウス大会」が開催され、2013年で34回目を迎えた。これだけ長く継続されているロボコンは他に類がなく、マイクロマウス競技はロボットコンテストの草分け的存在といえる。
マイクロマウス競技は、“自立型迷路探索ロボット”が未知の迷路をセンサーで壁を検知しながら、スタートからゴールまで走行し、そのスピードを競う。ゴールは迷路中央に設定されており、古典的な迷路攻略法である「左手法(左手を壁に当てて歩いて行けば、いつかは出口にたどり着く)」は使えない(ちなみに、米国で競技会を行った際の迷路は、左手法で攻略が可能であったという)。その上、ゴールへ至る経路は複数ある。マイクロマウスは、単にゴールへ向かうのではなく、幾多の経路の中から“最短経路”を見つけ出してタイムアタックを掛けるのである。
迷路は、1区画180mmの16×16区画で構成されている。ロボットのサイズは、縦・横250mm内と定められており、高さには制限がない。迷路の区画よりもロボットの規定サイズが大きいのは、かつて、壁の上部にフレームを張り出し、上から壁を検知する技術が主流であったためだ。当時、ロボットのサイズも規定範囲ギリギリで、重量は3kg以上あったという。現在、マイクロマウスは文字通り小型化が進み、“手のひらに乗るサイズ”が主流となっている。
2009年には、従来競技の2分の1サイズの迷路を走る「マイクロマウス(ハーフサイズ)」がスタートした。これは小型の電子部品やセンサー類の個人入手が可能になったことを受けて、コンテストのレベルアップを目指し、従来のロボットと迷路のサイズを半分にスケールダウンしたものだ。ハーフサイズの登場以降、“マイクロマウス”はハーフサイズマウスに向けられる用語となり、従来のサイズは「マイクロマウスクラシック」と改称された。本稿においては、自立で迷路を走行するロボットを総称して、“マイクロマウス”と表記する。
今では、モノづくり教育の一環として、1年中どこかで何らかのロボットコンテストが開催されている。マイクロマウス競技が、他のロボコンと大きく違うのは34年もの間、基本ルールがほとんど変わらない点にある。
多くのロボコンは、モノづくりの楽しさを競い、アイデアや機構の面白さに重点が置かれる傾向にある。毎年テーマが変わり、競技をクリアするために機構を工夫したロボットを作り、動かすというものだ。
それに対し、マイクロマウスの機構は非常にシンプルだ。搭載されているのは、マイコンとバッテリーの他は、移動するためのモーターとタイヤ、そしてセンサー類。メカニズムよりも、ソフトウェアの比重が大きい。きちんと動くメカを製作し、ロボットの信頼性と知性の向上を目指し、ソフトウェアを作り込む競技である。
一見すると地味なロボットだが、マイクロマウスには最先端の技術と知能が組み込まれている。そして、マイクロマウスには、個人がシステムを設計して、メカからソフトウェアまでをきちんと作り込める面白さがある。競技の難易度は高いが、競技ルールが変わらないため、数年計画で取り組めるのも魅力だ。30年以上継続していても参加者が増え、そして10年、20年と開発に取り組む技術者が多いのも、そうした理由があるからだろう。
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