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「IoT」時代の期待と懸念

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あらゆるモノがネットにつながる時代へ

 「自動車、電車、飛行機などの乗り物、テレビ、冷蔵庫などの家電、医療機器、医薬品などのモノがインターネットにつながり、ヒトの作業を介さず自動的に多種多様なデータを送受信するIoT(Internet of Things)の時代が到来している」(日本オラクルのデレク・エイチ・ウイリアムズ社長)

 「当社では、(IoTの発展形として)これまで結びつきのなかったヒト、プロセス、データ、モノのすべてをインターネットでつなぎ、新しい価値を創造するIoE(Internet of Everything)を提唱してきた。この新たな世界では、さまざまな新しいデバイスを通じて私たちに価値をもたらすアプリケーションの重要性が高まり、ネットワークにはユーザー、アプリケーション、データセンターを統合し最適化するインフラとしての役割が求められる」(シスコシステムズの平井康文社長)

 「IoTの進化のスピードは非常に速く、政治や社会の情勢から産業構造も変化し続けている中、われわれはその潮流を見極め、新しい市場を創っていかなければならない」(NECシステムテクノロジーの毛利隆重社長)

 ICT関連ベンダーのトップが発信した2014年の年頭メッセージには、IoTへの期待や取り組み姿勢を挙げたものが目立った。上記はその一例である。

 改めて、IoTとは何か。IDCによると、世の中に存在するさまざまなモノがインターネットを介してつながることによって実現されるすべてのサービスを指し、それに関わるデバイス、ネットワーク、データ分析基盤、アプリケーションなどあらゆる市場を包含したものをIoT市場と定義している。

 なお、類義語として知られているM2M(Machine to Machine)市場に関しては、IoT市場の内数として特に機械同士が自動的に通信を行うことによって生み出される付加価値の市場だとしている。

 では、IoT市場の成長性はどれほど期待できるのか。IDCでは、2012年に約4兆8000億ドルだったIoTの世界市場規模が、2020年には約8兆9000億ドルになると予測している。また、IoEを提唱するシスコでは、インターネットにつながるモノの数が2020年に2013年の5倍の約500億個に達すると予測している。

懸念される点はセキュリティとコスト

 では、この成長市場に向けたICT関連ベンダーのビジネス戦略とはどのようなものか。IDCによると、「グローバル事業拡大」「業種間連携拡大」「コンシューマービジネス拡大」の3つの方向性に分類できるという。

 まず、グローバル事業拡大では、製造業や流通業に携わる企業ユーザーから、すでに国内で利用しているIoTサービスを海外でも横展開できるようにしたいというニーズが顕在化してきており、それに対応すべく関連ベンダーが次々と参入している状況だとしている。

 次に、業種間連携拡大では、特に通信事業者において国内のIoT市場では未開拓ニーズがあるはずとの見方から、さまざまな業種の潜在ユーザーに対してニーズの掘り起こし施策を進める傾向にあるという。また、他の関連ベンダーでは、自社ですでに提供を始めているM2Mサービスプラットフォームに対してさらに付加価値を強化することを目的として、ビッグデータ関連サービスとの連携を進めているとしている。

 そしてコンシューマービジネス拡大では、特にスマートハウスやエネルギーマネジメントといった分野において、家電メーカーや電力会社との協業によって収益機会創出に取り組む傾向にあるという。

 その上で、「3つの方向性のいずれにおいても、関連ベンダーによる熾烈な主導権争いは避けて通れない。IoTビジネスでの競争は、第3のプラットフォーム(モバイル、ソーシャル、ビッグデータ、クラウド)との親和性が非常に高いため、その結果として第3のプラットフォームの飛躍的な成長に貢献するだろう」とIDCでは見ている。

 一方、IoTの進展に伴って懸念される点もある。まずはセキュリティリスクだ。セキュリティベンダーのトップは年頭メッセージなどでこう指摘している。

 「(IoTによって)企業が扱う情報量が爆発的に増え、センシティブな情報も集まるようになると、当然ながらセキュリティリスクも増大する。ビジネスや社会にイノベーションを引き起こすためにもセキュリティの強化は不可欠となる」(トレンドマイクロの大三川彰彦副社長)

 「自動車をはじめ医療機器やスマートグリッドに至るまでIoTへの攻撃が増大し、手口も巧妙になる。混乱を招くという程度ではなく、本当の意味で破壊的な力を持つ攻撃が増えていくだろう」(米EMCのアート・コビエロ エグゼクティブバイスプレジデント兼RSA会長)

 また、シマンテックも今後の予測として、「(IoTの進展によって)膨大な数の組み込みOSが稼働することになり、これがハッカーの目を引く。セキュリティ研究者はすでに、スマートテレビ、医療機器、防犯カメラに対する攻撃が可能であることを実証している。こうしたシステムは攻撃に対して脆弱なだけでなく、脆弱性が見つかったときに消費者や取引先に通知する方法も定まっていない。新しい脅威が今まで想像もしなかった方法で出現してくるだろう」と警告している。

 コスト面での懸念もある。IoTによって生み出されるビッグデータの活用に対して、現時点ではユーザー視点でのコストパフォーマンスが明確になっているとは言い難い。この点については、2013年11月18日掲載の本コラム「ビッグデータ活用ソリューションの課題」で取り上げたので参照いただきたい。

 このように大きな期待の一方で懸念もあるIoTだが、認識しておくべきなのは、この世界がICTの進展によって必然的に訪れるということだ。そこで指摘しておきたいのは、ICTを活用した人間社会のあり方といった哲学的なことを改めてしっかりと議論し、共通認識として広げる努力を決して怠らないことである。そこまで議論を掘り下げる必要があるほど、IoTのインパクトが大きいことをまず強く訴えておきたい。

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