2014年は「モバイルPC熟成の年」に
「1年のPC動向を占う」——これまでに何度か執筆してきた年始定番のテーマだ。かつては「PC動向=IntelとMicrosoftの動向」であり、両社の戦略を見ておけば、おおよそPC業界の進む方向や製品を買うべき時期を知ることができた。
現在でもIntelのマイクロプロセッサ開発ロードマップは、製品動向を考えるうえで重要な指標であることは間違いない。2013年に発表された“Haswell”(開発コード名)こと第4世代Coreは、Intelが2011年に提唱したUltrabookのコンセプトを完成させるために作られたマスターピースと言っても過言ではなく、これによってモバイル系のPCの使い勝手が大幅に向上したことは皆さんご存じの通りだ。
今年も大まかな流れはIntelのロードマップに依存している。結論から言えば今年、2014年は「モバイルPC熟成の年」になるだろう。Haswellに盛り込まれたさまざまな機能とWindows 8.1(あるいはそのアップデート版)がうまく溶け合い、幅広い製品に浸透していく。
Haswellの後継となる14ナノメートルプロセスを採用した“Broadwell”(開発コード名)の登場も予定されているが、フォームファクタや絶対的な性能には大きな影響があるものの、基本的にはHaswellベースだ。言い換えれば、道具としての作り込みが使い勝手や機能性に影響するモバイルPCは、2014年が買いどきになる。
一方、「動向」という意味ではAtom系プロセッサの進化がPC業界全体の「形」を換えていくことになるだろう。2013年に登場した、“Silvermont”と呼ばれる新設計のコアを用いたBay Trail(開発コード名)は、省電力性を維持しながら、Atomの性能を大幅に引き上げた。特にBay Trail-T(開発コード名)ことAtom Z3000シリーズは、高性能タブレット向けのSoCとして見逃せない存在だ。
また、改善されたAtom系プロセッサは、その適応領域を大きく広げてきた。すでにエントリークラスのデスクトップPC、ノートPC向けのBay Trail-D/-M(開発コード名)には、PentiumやCeleronといった、かつてIntelプロセッサのメインストリームだったブランドが割り当てられている。PCのアプリケーションが広がっていくならば、まだ亜流のままだろうが、今とさほど変わらない応用範囲で使われる分野では、将来、Intel Coreアーキテクチャに代わってAtomが主流になっているかもしれない。
Intelのプロセッサは、他社の安価な生産設備を利用してコストを下げたエントリークラスのスマートデバイス向けSoC“SoFIA”(開発コード名)の製品計画などもあり、コストや省電力性、パフォーマンスなどの軸により、多様な製品が展開されることになるだろう。その位置付けや上下関係、あるいは用途の違いなどは複雑さを増しており、単純にIntelのロードマップを見ているだけでは状況を追うには不十分になっている。
前提となるPC環境の変化について述べたうえで、2014年の話をすることにしたい。
Intelのロードマップから類推できないこと
かつてPCの大半がデスクトップだった時代、Intelの新プロセッサ投入タイミングは、そのまま新型PCの登場を意味していた。前記したHaswellのような大きなアップデートだけでなく、新しいクロック周波数の追加タイミングも重要。さらにプロセッサに合わせて設計されたチップセットの提供ロードマップをキャッチアップすれば、PCメーカーの動向や、自作PCの最適な組み換えタイミングを予想することは容易だった。
Intelは2003年にCentrinoプラットフォーム(当時はCPU、チップセット、無線LANモジュールで構成されたモバイルPC向けプラットフォーム)を立ち上げて以降、年々、製品開発の基礎部分についてPCメーカーに協力(あるいは技術供与)する領域を増やしていき、新プラットフォームの立ち上げが素早くなったことも、買いどきを予想しやすくなっていた理由だ。
ノートPCが市場の大半を占めるようになった今、CPUソケットに入れる石を換装すれば新製品……といったお手軽なアップデートはあまり意味がないが、Haswellのような大幅なアップデートは、消費者としては決して逃したくないものだ。よって、いまだにIntelのCPUロードマップはPC市場のウォッチャーにとって重要である。
ノートPC、とりわけ軽量さやバッテリー持続時間を重視するモバイルPCとなると、「新たなプラットフォームの特徴を生かした製品はいつ登場するのだろう?」という観測点も必要になるため、より評価は複雑になるが、大まかなところで言えば、しっかりと情報は押さえておきたいところだ。
問題はプラットフォームのリプレースが行われるタイミングを予想するだけでは、現実に出てくる製品が、どこまでそのプラットフォームの能力を生かしたものになるのか、予測することが難しくなってきたことだ。昨今のPCは、以前にも増してOSを含むソフトウェアとハードウェアの協調動作が求められるようになってきている。
典型的な例は“InstantGo”だ。Windows 8.1のInstantGo機能は、スタンバイ状態でも特定のプロセスを省電力に動かせるタブレット端末のような動作が期待できるうえ、トータルの省電力化にも貢献する。もとよりHaswellの利点として、またUltrabookが実現するフィーチャーとして強く訴求されていたので、Haswellが市場に投入されれば、即座にどのPCを選んでもInstantGoが使えると思っていた人が多いのではないだろうか。
筆者もInstantGo対応には、各デバイスの選定やドライバなどの対応が必要とは知っていたが、まさか2013年の年末に「まだ、Haswell搭載機ではソニーのVAIO Duo 13だけしか対応していない」とは想像していなかった(Atom搭載の32ビット版WindowsタブレットならInstantGo対応製品は他にもある)。
これは、どのタイミングでどんな機能、性能、省電力性を持った製品(Intelのプロセッサではなく、PCメーカーの製品という意味)が登場するかを、Intelのロードマップだけで一概に類推するのが難しくなっている1つの例だ。
そのうえで「2014年のPC」について考えると、今年は購入時期や新製品に搭載されるだろう要素が「読みやすい」タイミングだと考えられる。なぜなら、プロセッサやチップセットなど、Haswellで加わった大幅な機能、仕様の変更がきちんと製品レベルで反映され、どの製品を購入しても体験レベルの差が少ないというところに近付いていく年になると考えられるからだ。
デスクトップPCに関しては、デスクトップPC(省スペース型や液晶一体型など)の形状していても、中身はノートPCと共通のコンポーネントを採用した製品がメーカー製としては主流だ。Intelと話をしても、現在のデスクトップPC向けプロセッサのラインアップは、自作PCやガレージメーカーのPCが想定される用途であると認めている。
一般論としては、Intelのロードマップから最終製品の性能や機能、使い勝手を類推することは難しくなっているが、今年はおそらく大きな変化はなく、Haswellがメインストリームのプロセッサとなっていく。Haswellの縮小版であるBroadwellは大幅な機能追加がないと言われている。
その結果として、2014年、Intel Coreアーキテクチャのプロセッサを搭載するPCには大きな変化のない年になる。しかし、機能を生かした製品という意味では、Ultrabookの本来のコンセプトが生きてくるのが、このタイミングだ。CPU中心主義ではなく、製品トータルの魅力としては、Haswellのよさを引き出す製品が増えて、その恩恵をさまざまな人が受けられるようになる。ノートPCにタブレット機能を組み込んだ“2in1”(コンバーチブル)タイプの筐体も、さらに増えてくるだろう。
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