2013年もまもなく終わろうとしているが、今年のデジカメトレンドを3つのキーワードで表現するならば「スマホカメラの進化」「趣味性への回帰」「新たな仕掛けの発芽」なのではないかと思う。連鎖する話となるので、順番に振り返ってみよう。
スマホカメラの進化
これは昨年から見えていた傾向であるが、スマートフォンの普及と進化、そしてスマホ搭載カメラの進化はとどまることを知らず、結果的に低価格なコンパクトデジカメはその需用そして市場の大半を奪われた。旅行先から日々のイベントまで、いままでならコンパクトデジカメを手にしていたであろう人々の手には、今日、スマホが握られている。
Wi-Fiに代表されるスマホ連携機能を搭載することでスマホとの使い分けを提案したコンパクトデジカメも多く登場したが、大きな成功を収めたとは言いがたく、最終的には防水や超望遠、カメラとしての高い質感といった、スマホで代替できない領域をカメラが受け持つという格好に収まった。
CIPA(社団法人カメラ映像器機工業会)の統計資料も日常の記録役がコンパクトデジカメではななくなりつつあることを裏付ける。
2013年1〜10月分(本稿執筆時での最新資料)の日本国内向けデジタルカメラの出荷台数は636万4630台でこれは前年同期比87.3%ながらも、金額ベースでは前年比96.7%と市場規模という観点からは昨年同期と同レベルを維持しているように見える。ただ、内訳を見るとレンズ交換式が前年同期比128.5%(台数ベース)の成長を見せているのに対し、レンズ一体型(コンパクトデジカメ)は前年同期比では台数で77.5%(金額で78.9%)とマイナス傾向を示している。
各社の製品ラインアップもそれを裏付ける。低価格な日用品的コンパクトデジカメを豊富にラインアップするメーカーは既に無く、製品投入のサイクルも一時に較べると非常に緩やかなものになっている。
趣味性への回帰
では「スマホで代替できない領域をカメラが受け持つ」として、それは旧来と同じく防水や望遠、またはカメラとしての質感なのか。以前からコンパクトデジカメとスマホとの関係性という観点より議論されていたテーマであるが、2013年にはレンズ交換式の側から、強くカメラであることを誇示する製品が登場した。ニコンの「Df」だ。
一見するとフィルムカメラのようなクラシカルなボディは徹底的にダイヤル操作にこだわっており、フルサイズセンサー搭載機(FXフォーマット機)としては軽いが、重量を量れば決して軽くもないし、小さくもない。ただし、「カメラ」であることを強烈に主張する存在感がある。決して安価なモデルではないが高い支持を得ており、バックオーダーの消化もままならない状態が続いている。
画質を筆頭とした性能や機能はもちろんだが、写真撮影という趣味を楽しむためのツールというスタンスが一貫されていなければ、ここまでのボディサイズやアナログ主体のインタフェースは受け入れられなかった可能性が高い。利便性ではなく、頑ななまでに写真が「趣味」であることを主張したことが、Dfの最大の注目点といえる。
他の製品では、結果的に写真趣味層への強いアピールに成功した格好となったのが、ソニーの「α7/7R」だろう。「誰も作れなかったカメラ」と題し、世界最小最軽量のフルサイズミラーレスという先進性を伴って登場したが、フルサイズセンサー対応Eマウントレンズの少なさ(現時点で入手できるのは2本のみ)が影響し、現在のところ、システムとしての評価を下すことは難しく、オールドレンズの母艦としての注目度が高い状態となっている。
オールドレンズを装着した状態ではMFが基本となるほか、アダプターを介しての運用となるためにサイズも大きくなる。だがそれでも手持ちの気に入っているレンズを最新のフルサイズ機で使いたいというニーズは強く、こちらも利便性ではなく、趣味としての写真、カメラを愛好する層にとって魅力的な製品となっている。
誰もが欲しがる、買いたいという製品ならば利便性や求めやすい価格といった要素が求められるが、趣味性に訴えかけるならばそれらは必要ない。デジカメのコモディティ化が進んだ今だからこそ、趣味性の高い製品が輝いて見える。
写真を趣味としてもらうためのカメラ
ほんの少し前までカメラは趣味の製品だった。それがデジタル化の恩恵を受けて日用品化し、その反動で今は趣味性の高い製品が注目を浴びている状態と言える。それでは、このまま趣味性の高い、高価な製品だけが登場し続け、カメラはまた趣味のモノ、強い言葉で言い換えれば、趣味として始めるにハードルの高いものになるだろうか。
決してそうとは言い切れない。デジタル化したからこその利便性や手軽さが高まり、結果として、スマホで写真を始め、カメラを手にするような層も少なからず存在する。これから写真を趣味とする、あるいは趣味にしてもらうための“仕掛け”を持ったユニークの製品が登場しているのも今年の特徴と言えるだろう。
それらに共通するのは、「写真を楽しめる本格的な描写」と「取っつきやすさ」を兼ね備えたことで、ソニー「DSC-QX100」とパナソニック「DMC-GM1」はいずれも高い描写力を持ちながら、前者はスマホ利用が前提、後者はその小ささで心理的なハードルを引き下げている。来年はこのような、取っつきやすさを持った製品が登場するのではないかと予想する。
決して安価ではないα7やDfに寄せられる注目度の高さは、写真趣味層が多く存在していることを裏付けた。来年もこの趣味層に向けた製品が多く登場すると思われるが、その次の課題は、カメラ、ひいては写真に興味を持つ層をいか生み出し、趣味層というところまで醸成していくことではないかと感じている。
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