さまざまな製品を主に印刷技術を使って作り上げようという動きが盛んだ。なぜ印刷にこだわるのだろうか。製造コストを劇的に引き下げられること、これが最大の理由だ。
製造時のコストアップ要因は幾つもある。材料自体のコストはもちろん、製造工程自体にも原因がある。工程数が多いこと、各工程に時間が長いこと、各工程で加熱や冷却などにエネルギーを大量に使うこと、これがコストアップにつながる。例えば真空が必要な工程や、清浄度の高いクリーンルームを使う工程などは避けたい。
印刷技術を使うことができれば、これらの問題が一気に解決する。常温、常圧下で大面積を一気に作り上げる、これが印刷技術の醍醐味だ。例えば、ロール状に巻いた100mにも及ぶ「基板」にパターンなどを印刷することで電子部品を作り上げるロールツーロール(R2R)法が望ましい。
このように考えると、積水化学工業が「電池」を印刷技術で作り上げようとしている理由を理解できる。同社は印刷技術を前提としてリチウムイオン蓄電池と太陽電池という2種類の電池を開発中だ。
室温下で有機系太陽電池を製造する
同社は東京で開催された環境関連の展示会「エコプロダクツ2013」(2013年12月12〜14日)で、2種類の電池を見せた。1つは色素増感太陽電池、もう1つはリチウムイオン蓄電池だ。
「当社が色素増感太陽電池で狙いたいのは、低温条件で連続生産することにより、製造コストを下げることだ。製造規模が1万m2の場合、従来方式と比べて製造コストを3分の1に抑えることが可能だ」(積水化学工業)。今後、量産技術を確立し、2015年に太陽電池市場への参入を目指す。
色素増感太陽電池は、シリコン(Si)を使わない有機系太陽電池の1つ。二酸化チタン(TiO2)と有機色素、ヨウ素(I)のイオンを組み合わせた太陽電池だ。これまでは製造時に高温(約500度)の焼成過程が必要だったが、同社は室温プロセスだけで有機フィルム上に太陽電池を試作した(図1)。高温焼成を使わない世界初の実績だと主張する。
変換効率は8.0%であり、有機フィルム上に形成した色素増感太陽電池としては世界最高水準であるという。なお、ガラス基板上に形成した場合の発効率は9.2%だった。
開発した製造方法は、積水化学工業のR&Dセンターと産業技術総合研究所(産総研)の先進製造プロセス研究部門が共同で作り上げたもの。積水化学工業は微粒子制御技術や多孔膜構造制御技術、フィルム界面制御技術を用い、産総研が開発したエアロゾルデポジション法(AD法)と組み合わせた。産総研はセラミックス微粒子が常温で固化する常温衝撃固化現象を発見し、AD法として確立している。音速に近い速度で有機フィルムにナノ粒子をぶつけることで、均一で強度の高い膜を形成できる。既にロールツーロール法による連続成膜にも成功しているという。
太陽電池として機能する膜が強く、有機フィルムに曲げる力が働いても機能し続けるため、曲面を帯びた場所に設置する太陽電池や、意匠性を高めた太陽電池の開発にも役立つ。
もう1つの開発品は、リチウムイオン蓄電池だ。大容量で軽く、薄いことが特徴である。
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