——前編に続き、「ルミエール・ジャパン・アワード2013」受賞作から最新の3D映像を紹介していきたいと思います
こだわりの職人芸を描いた「ダイハツコペン3D」
麻倉氏: 同じく「ドキュメント/ライブ部門」の作品賞を受賞した「ダイハツコペン3D」は、昨年8月にコペンの生産を終了し、ラインを閉鎖する際、最後の1週間に密着して撮影された記録映像です。コペンはニッチではあっても、とてもスペシャルな自動車。製造時には熟練技能者の手作業による調整が行われていて、その職人芸を記録として残したのです。5分前後の短い作品で、現在もダイハツのショールームなどで見ることができます。
今回、私が採点表に90点以上をつけたタイトルが2つありました。それがグランプリの受賞作品と、この「ダイハツコペン3D」です。3Dならではの機能性と作品性に生かしていて、むしろ3Dじゃないと分からない映像といえます。例えば工場の機械がしっかりと奥行き感をもって区別できます。
また、丸いコペンの車体がライトの反射で何ともいえないきらめき感と実体感を持って迫ります。モノの魅力をしっかりと捉えたリアリティーを持っていました。ほかにも屋外の太陽光や溶接の火花など、たいへんうまく光を使って細部を再現しています。こだわりの職人芸を、こだわった撮影で残した作品であり、画質もすばらしい。日本の物作りの強さ、精神を感じとれる作品でした。
ステレオ撮影よりもスゴイ2D-3D変換、「キャプテンハーロック」
麻倉氏: 最後にグランプリを受賞した「キャプテンハーロック」を紹介しましょう。松本零士さんの名作コミックを日本のトップクリエイターたちが映像化した3D CG映画で、今年の秋に全国で劇場公開されました。実際の映像を見ると、アルカディア号の雄大さと宇宙の広大さが感じられ、実物感や立体感も十分。「これはすばらしい3Dだ」と思っていたら、実は2D-3D変換だったのです。これには驚きました。
これまで、2D-3D変換というと不自然な立体映像になることも多く、やはり3D撮影よりも下だと感じている人がほとんどだと思います。実際、2D-3D変換の良作とされる「タイタニック」でも一部のシーンで艦橋とデッキの位置関係がおかしくなっていたり、3D撮影ではタブー視される“かきわり”(被写体が画面の外にはみ出し、違和感を感じるフレーミング)的なシーンも多くありました。しかし、「キャプテンハーロック」にはそれがありません。それどころか作品性と3Dの演出が深く結びついています。
この2D-3D変換は、キューテックが手がけたものです。荒牧伸志監督は3Dにも興味があったのですが、実際に撮影が始まる手が回りません。そこで5分程度のダイジェスト版を作り、各プロダクションに3D変換を依頼したそうです。出来上がった3D映像は、キューテックが抜群に良かった。荒牧監督は3D化も想定したカット割りなども行っていて、キューテックは想像力を働かせて監督の意図を見事に汲んだのです。それが良い結果につながったのでしょう。
キューテックの担当者と話をしたとき、「2D-3D変換は決してステレオ撮影に劣らない。むしろ素材から引き出せる表現力は、変換のほうが上になる」と話していました。例えば、広大な宇宙を描くとき、遠くにあるものの立体感を出そうとすると、ステレオ撮影ではステレオリグ(立体撮影用機材の一種)を複数、それもワイドに置く必要があります。しかし、しっかりとノウハウを持った人が計算して変換を行うと、通常の2D映像からも立体感を引き出せます。遠景での立体感はどうつけるか。宇宙の果てに星雲があるというシーンでは、星雲そのものの立体感をつけることで、奥行きの距離感を出し、しかる彼方までの立体感まで演出していました。
アルカディア号から複数のビームが発射されるシーンでは、その角度の違い、つまりビームが手前にくるのか、向こう側へ行くのかをしっかり計算して作ると立体感が際立ちます。そうしたテクニックを多用し、ハリウッド作品にも引けをとらない3D映画を作り上げました。私も採点表に91点という最高の得点をつけました。
アワードの発表会である評論家の方が、「今、3Dは低迷期だ」と言われましたが、私はモノ作りという観点で見ると、3Dを使って表現するテクニックは徐々に進歩していると思いました。事実、2Dではなんとなく見えているだけの映像も3Dなら実感を持って受け取れます。3Dは物語と深く結びつき、3Dならではの演出がある作品も登場してきました。進歩を続ける3Dに今後も注目していきたいと思います。
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