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OSSビジネスに挑むノーチラス・テクノロジーズ

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「田中克己の『ニッポンのIT企業』」 バックナンバー一覧


 「企業向けOSS(オープンソース・ソフトウェア)のビジネスを成功させる」。2011年10月に誕生した中小IT企業、ノーチラス・テクノロジーズの神林飛志社長はこう意気込み、大規模な基幹バッチ処理を可能にするOSS「Asakusa Framework」の普及活動に力を注いでいる。

中小企業にも使えるOSSに

 ノーチラスは基幹系向けミドルウェアの開発、販売を手掛けており、主な商品に流通業向けEDIソフトと「Asakusa Framework」がある。特に安定した収入を得られるEDIソフトは、同社の大きな収益源になっている。そこから得られた資金を、将来の成長の種となる商品の開発に振り向けており、その成果の1つがAsakusa Frameworkというわけだ。

 Asakusa Frameworkは、大規模なデータを分散処理、管理するHadoop上で、基幹バッチ処理を実行するもの。Hadoopの周辺機能を開発するIT企業が数多くある中で、ノーチラスは基幹バッチ処理に適する開発環境と実行環境、運用環境の開発に取り組んできた。「例えば5時間かかっていたバッチ処理が20分になる。しかも、クラウドでも実行できる」。神林社長はAsakusa Frameworkの特長をこう説明する。

 ユーザー数は2013年3月末時点で20社近くになる。アンデルセンサービスが原価計算、西鉄ストアが会計、九州電力が社内文書などに、それぞれAsakusa Frameworkを利用している。クラウドサービス「Amazon Web Services」でも稼働するなど、関心を持つユーザーは増えており、「講習会はいつも満杯になる」(神林社長)。日立ソリューションズや東芝ソリューション、新日鉄住金ソリューションズなど数社のIT企業も、システム構築案件の中に採用している。

 現在、ノーチラスはAsakusa Frameworkの機能強化を進めている。「ユーザーが直観的に使えるようにする」(神林社長)。中堅・中小企業のIT担当者にも簡単に使えるようにするためだ。多くの機能を盛り込んだソフトには、あるユーザーにとっては不要な機能がたくさんある。そんな機能を削ぎ落し、シンプルなものする。しかもクラウドを活用すれば、ハードなどIT設備を購入しなくても、安価に大規模なバッチ処理の環境を作れる。「そんなユーザー寄りの道具を揃える」(同)。

ライセンス販売の限界

 日本市場でもこうしたOSSが増え続けている。適用領域もWeb系からエンタープライズ系へと広がっており、例えば、商用からOSSのデータベースに切り替える企業は少なくない。IT部門が購入するプロダクトの投資効果を精査し始めていることもある。だが、国産OSSは意外に少ない。最大の理由は「商売にならないからだろう」(神林社長)。

 ノーチラスがOSSに商機を見出したのには、EDIソフトというストックビジネスを持っていた以外の理由がある。「商用ライセンス販売がクラウドの台頭で頭打ちになる」との予見だ。兆候は、ASPサービスの立ち上がった約10年前からあった。「ASPがクラウドになり、ソフト会社は身動きをとれなくなっている」(神林社長)。ライセンス販売の次のビジネスモデルを作らなければ、生き残れない時代になるということ。

 だが、多くのソフト会社はクラウド対応に躊躇する。クラウド版を出しても、明確な料金体系を用意しない。ライセンス販売を可能な限り持続させたいからだろう。つまり、その場しのぎの対応策になっているのだ。そこにOSSが普及し始めたら、ライセンス販売はますます難しい状況に追い込まれるだろう。

 神林社長は「(OSS専業の)レッドハットのようなビジネスモデルにする」という。基幹業務に使える業界標準のOSSに仕立てて、保守サポートなどから収益を稼ぐというものだろう。そのため、情報の発信や多くの技術者との交流を活発に行うなどし、より多くの企業や技術者が支援するOSSに育てようとしている。コミュニティーからの評価が高くなければ、OSSは成功しないからだ。

 社員約15人のノーチラスは、プロダクトとサービスの開発に投資を集中させている。実際の収入は、プロダクトのサポートと導入支援になるが、最近はクラウドの設計依頼も増えている。「どうクラウド化すればいいのか」とIT部門から相談があったら、アドバイスするとともにAsakusa Frameworkの採用を働きかける。加えて、ユーザーの声を直接聞くため、3人の営業を配置するなど直販にこだわる。「下請けは決してしない」(神林社長)。


一期一会

 神林社長は1970年生まれの43歳。公認会計士の資格を持っており、外資系会計事務所に入った。その後、父親が経営する流通会社のCIO(最高情報責任者)を務め、2000年にITコンサルティング会社、ウルシステムズの取締役に就いた。2011年10月にノーチラスの誕生とともに副社長になり、2012年4月に社長に就任した。

 ノーチラスは複雑な成り立ちに思える。2011年5月、ウルシステムズとイーシー・ワンが経営統合を発表し、イーシーのSI事業をウルシステムズに統合する一方、ウルシステムズのHadoop関連部門とEDIをイーシーに移管し、社名をノーチラスに変更した。ところが、イーシーの経営者らが去ってしまったことで、Hadoop関連事業を担当していた神林氏が社長に就いた。

 実は、神林社長は経営統合の話が出る前にスピンアウトを考えていた。エンタープライズ向けOSSにチャレンジしたかったからだ。大手IT企業は組織の肥大化、複雑化で、新しい領域の商品開発に出遅れている。特に、「OSSは、どう儲けるのか」と経営者から明確な回答を求められる。稟議書の作成などに時間がかかり、経営判断も遅れる。決断力と行動力のある中小IT企業に、チャンスがあるということだ。

「田中克己の『ニッポンのIT企業』」 連載の過去記事はこちらをチェック!


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