前回の「制作編」では、配信データの作成時に注意すべきポイントを、筆者が実際につまづいた点を踏まえてレポートした。今回はそれに続く「配信編」として、実際に制作したものをKindleストアで販売する際の注意点をまとめて紹介する。
まずアカウント情報の必須項目をすべて入力する
「Amazon Kindle ダイレクト・パブリッシング(以下、KDP)」のサイトを開くと、Amazon.co.jpを利用していれば「Amazonアカウントを使用してサインインする」という表示が出る。問題なければそのまま[サインイン]するとKDPの[本棚]画面が表示される。
いきなり[新しいタイトルを追加]するのではなく、まずは右上の[今すぐ更新]からアカウント登録を完成させておこう。
KDPのロイヤリティ支払いは電子資金振替(EFT)と米ドル建て小切手の2種類に対応しているが、多くの場合は銀行口座を登録してEFTで自動的に支払いを受け取る方法を選ぶだろう。ところが、一部の邦銀ではリフティングチャージ(外為送金手数料)が発生する。手数料の有無や額は銀行によって異なるので、必要に応じて銀行に問い合わせ確認しておくとよい。筆者は、手数料が掛からないという話を聞いて、新生銀行にKDP専用口座を作った。
何も手続きをしないと米国の税法に基づいて30%が源泉徴収される
KDPは米国法人(Amazon Services International)が提供するサービスなので、何も手続きをしていないと米国非居住者への支払いは米国の税法に基づいて30%が源泉徴収される。つまり、米国と日本で二重課税されてしまうのだ。これを回避するには、米国内国歳入庁(IRS)に雇用者番号(EIN)を申請し、Amazonに「米国人でない」ことを申告する必要がある。どちらもオンライン上では手続きできない。
IRSへの申請は、電話、FAX、郵送のいずれかで行う。筆者は3月22日にファミリーマートからFAX(150円)で申請したところ、EINは4月18日に郵送で届いた。受信できるFAXを持っていればもう少し早く届くだろうし、電話であればその場で取得できるようだ。
EINを取得したら、シアトルのAmazon本社へ免税書類(W-8BEN)を郵送する。筆者は4月22日に郵便局からエアメール(110円)を送り、5月8日に手続完了のメールが届いた。
手続きの詳細は、KDPヘルプの[税に関する情報][米国以外の出版者様向け]に記されている。書類の書き方例などもここに載っている。なお、W-8BENにはKDPの出版者コード(アカウント情報の画面に記載されている)を記入する欄がない。Amazon側の事務処理で書類とアカウント情報を結びつけるのに手間取る場合もあるようなので、出版者コードを右上の空白部分に手書きしておくといいだろう。これらの手続きを代行する業者もあるが、注意すべき点さえ押さえればそれほど難しくはないので、せっかくなら自分でやってみることをお勧めする。
ちなみに、ヘルプには「各月10日までに受理されたフォームは、通常の月末支払いに適用されます」とあるが、筆者の場合5月末支払い(3月分売上)の明細では30%源泉徴収されたままとなっていた。念のため問い合わせてみたところ、単なる事務処理ミスだったのだが、いずれにせよ、これらの手続きには若干時間が掛かるので、早めに済ませておくとよいだろう。
KDPセレクトと希望小売価格の要件
KDPの[本棚]で[新しいタイトルを追加]をクリックすると、「KDPセレクト」へ登録するかどうかの選択と、本の詳細情報やカテゴリの設定、表紙や作成したファイルのアップロード画面になる。KDPセレクトに登録した場合、Kindleストアにその作品の独占販売権を90日間以上提供する代わりに、70%のロイヤリティオプションが選択可能になり、また、90日間で最長5日間の無料配布キャンペーンオプションも手に入れることができる。海外ではKDPセレクトにKindle Owners' Lending Libraryでの貸し出しというオプションもあるが、これは日本ではまだ行われていない。
なお、既にほかのストアで販売していたり、ブログなどで無料公開していたりするコンテンツは、KDPセレクトに登録できない。筆者の場合、既にパブーやKoboなどで販売している書籍なので、KDPセレクトを試すことができなかった。
[保存して続行]し次へ進むと、販売地域と販売価格の設定画面になる。販売地域は日本以外に、米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、カナダ、ブラジルが選択できる。筆者は、在外邦人が購入してくれる可能性もあるかもしれないと考え、[全世界の権利]で設定してみたが、2カ月経過した時点で日本以外では1冊も売れていない。
印税に当たるロイヤリティは、35%または70%のいずれかが選択できる。一部売れることに小売価格の最大70%が著者の取り分になるということだ。35%ではファイルサイズによって設定できる販売価格が異なる。最低小売価格は、3Mバイト未満の場合だと99円、3Mバイト〜10Mバイトの場合は200円、10Mバイト以上の場合は300円。最高小売価格は、いずれの場合も2万円だ。
70%のロイヤリティを受け取るためには、上述したKDPセレクトへの登録のほか、希望小売価格を250円から1250円の範囲で設定する必要がある。また、別途1Mバイト当たり1円の通信コストを、著者が負担しなければならない。例えば、30Mバイトの本を希望小売価格250円の70%オプションで登録すると、250円×70%-30円で、1冊当たり145円が著者に支払われることになる。
[70%のロイヤリティ]を選択しても、希望小売価格が250円から1250円の範囲でない場合や、KDPセレクトへ登録していない場合は、ロイヤリティは自動的に35%となる。ただし、ファイルサイズによらず99円から2万円で設定できてしまうことに触れておきたい。
35%のロイヤリティではファイルサイズによって設定できる販売価格が異なると紹介したが、現状、[70%のロイヤリティ]設定であれば、例えば3Mバイト以上の作品でも200円未満の希望小売価格を指定できるのだ。もちろん受け取れるロイヤリティは35%となるが、マンガなどファイルサイズが大きくなりがちなジャンルの作品をシリーズで出したりするような場合に、続刊を購入させるための価格設定に柔軟性を与える裏技として覚えておくといいだろう(比較的早くから知られていた裏技的なものだが、現在も修正されることなく残っている。ただし今後も使えるかは分からない)。
iOSのみ対応が遅れる場合がある
登録が完了するとステータスは[レビュー中]になり、最長48時間でKindleストアに配信される。筆者の場合、登録から3時間弱で配信開始された。ただ、iOSのみ[配信先]として選択できない状態のまま、数日待たされることとなった。いろいろ調べてみたが、何が原因でこの現象が起きるのか、はっきりしていない。
筆者の場合、この状態でも[配信先]として選択ができないだけで、Kindle PaperwhiteやAndroidなどの別端末を選択して購入さえすれば、iOSアプリからでもダウンロード可能だった。筆者は、配信開始されたらすぐに告知を始めてしまったのだが、iOS対応が終わってからの方が親切だしチャンスを逃さないと思う。とりあえず、iOS対応は遅れる場合があるというのを頭に入れておこう。
著者セントラルに登録しておこう
KDPに限らず、Amazonで自分の本が販売開始されると、「著者セントラル」が利用できるようになる。著者セントラルでは、自分の著者ページに写真や略歴・イベント情報を載せたり、著書一覧を確認したり、ランキング推移がグラフで確認できる。特にプロフィールは、自分の人となりを読者に伝えられるので、積極的に活用した方がいいだろう。
ランキングに載るまでが大変
実際のところ、KIndleストアにただ載せただけで、売れることはない。まずはTwitterやブログなどを使って、自分で告知をしなければならない。ある程度売れて、Kindleランキングの「新着ニューリリース」や「ベストセラー」の100位以内に入ると、そこで初めてKindleストア内で目立つようになるため、売れ行きが変わってくる。だからまずは、Amazonに頼らない形でのランキング上位入りを目指そう。
筆者の場合、販売開始からしばらくは、自分のブログなどだけで告知をしていた。しかし、パブーなどで既に販売していたこともあり、正直あまり売れなかった。ところが、たまたまSNSで知り合って親しくさせて頂いていた人気ブロガーの方が、筆者の本を紹介してくれたのをきっかけに、シリーズで販売していた3冊が「コンピュータ・IT」のベストセラー1位・2位・3位にランクされることになった。そこからしばらくの間は、かなりの勢いで売れた。
やはり、自分だけの力には限界がある。周囲でブログを書いている人に書評をお願いしたり、Kindleストア専門情報サイトの「きんどるどうでしょう」や個人出版専門情報サイトの「つんどく速報」などにレビューを依頼してみるのもいいだろう。
コストを掛けられるのなら、広告を出してみるのも1つの手だ。Kindle本 年間ランキング2012の小説・文芸部門で1位に輝いた『Gene Mapper』の藤井太洋さんは、Google AdWordsやYahoo!リスティング広告も使っていたそうだ。
いずれにしても、「書く」「作る」だけでなく、「売る」方法まで計画を立ててやらねばならないのがダイレクト・パブリッシングだ。趣味でただ出すだけならそれほど難しくはないが、成果を出そうと思うとそれ相応の努力が必要だ。また、ビッグタイトルが同時期に売られていないなど、多少の運も必要だろう。決して、盛んに喧伝されているほど簡単ではない。ただ、誰でも簡単に進めるような平坦な道より、険しい山へ登る方が、困難な道であっても登り切った時の達成感は大きいだろう。簡単ではないけど、決して不可能ではないのだ。
著者プロフィール:鷹野 凌
フリーライター。ブログ「見て歩く者」で、小説・漫画・アニメ・ゲームなどの創作物語(特にSF)、ボカロ・東方、政治・法律・経済・国際関係などの時事問題、電子書籍・SNSなどのIT関連、天文・地球物理・ロボットなどの先端科学分野などについて執筆。電子書籍『これもうきっとGoogle+ガイドブック』を自主出版で配信中。
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