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ポップカルチャー政策は成り立つのか

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 日本政府のクールジャパン推進会議(議長・稲田朋美担当相)が「ポップカルチャー分科会」を新設。筆者が議長を務めている。映画監督の河瀬直美さん、漫画原作者の樹林伸さん、トーセの齋藤茂社長とともに、ポップカルチャーを海外に発信するアイデアを練るというものだ。

 ポップカルチャーは読者・視聴者・参加者・ユーザーが創り上げているものだから、「参加型」のアイデアでありたい。政策プラン作りも参加型で行きたい。そこで、議論に先立ち、乱暴な私案をネットで提示し、コメントやアイデアを募ってみた。

考え方

 マンガ、アニメ、ゲーム、音楽、ファッションなど日本ポップカルチャーの強みを生かし、海外の日本ファンを増やすための活動と情報発信を強化する。

 その際、子ども + 大人、アマ + プロ、伝統 + 現代、科学技術 + 文化、ハード + ソフトという日本ポップカルチャーの特徴を生かしつつ、平和を志向し、宗教色が薄く、無国籍的な日本ポップカルチャーの潜在的な魅力を共有するよう努める。

 各施策について、アウトバウンド(海外発信)とインバウンド(国内強化)の双方に力を入れ、3年程度の時限措置により推進する。

 以下、10個のアイデア。[……]は対策の目標数。

[1] 主要国首脳会議、World Economic Forumなど、海外首脳の集まる会議において、ポップカルチャー宣言を首相が表明するとともに、ポップカルチャー政策を一元的に推進する機関を設立し、民間から登用する長官が世界中を渡り歩く。

[3] アジア、南米などの新興国向けにポップカルチャー専用のテレビ3チャンネルを編成するとともに、同番組を世界にネット配信する。

[5] 初音ミク、ピカチュー、ガンダムなどのキャラクターについて国際ネット投票を実施し、上位5名をポップカルチャー大使に任命し、FacebookやTwitter上で多言語観光キャンペーンを打つ。

[7] 映画、放送番組、音楽、アニメ、マンガ、ゲーム、デザイン、7種のデジタルアーカイブ構築を推進するため、著作権制度などの特例措置を講ずる。

[10] 京都、沖縄などの地域やコミケ、ニコニコ超会議、沖縄国際映画祭などのイベントを10件、国際ポップカルチャー特区として認定し、二次創作や税制などの特例措置を講ずる。

[20] 海外および国内の20大学に日本ポップカルチャー講座を開設し、アーティストを講師として派遣するとともに、その場を利用してアニメ、ゲーム、音楽などを創作するワークショップを開催する。

[30] 30本の人気アニメの権利を解放し、世界中のアニメファンに日本のPRビデオを二次創作してもらう。

[50] アニメやゲームの制作力に基づくデジタル教材を50本制作し、途上国にODAで情報システムとともに提供する。

[100] 日本を代表する100人のクリエイターのメッセージ動画を配信する。

[1000] 正規コンテンツ配信サイト、アーティストのブログ、問題のないファンサイトなど、1000サイトを選定し、無償で英中西仏葡の翻訳を付して発信する。


 上記の私案に対して、支持する意見もあったが、案の定、批判も浴びた。大ざっぱにいって2種類ある。

  • 政官が主導するのはムリ。補助金は利権と化す。
    つまり、官や業界に対する、ユーザーやファンの反発だ。
  • そんなことより、労働環境改善するとか、足下を考えろ。
    つまり、業界内部からの声。「タダで協力させるよりカネ回せ」ということだろうか。

 コンテンツが1つの政策ジャンルになって20年近く。ここにきて政府は一段と高いギアに入れ、クールジャパンやポップカルチャーを前面に打ち出した。でも、ポップカルチャー政策を話題にすると、中味も聞かず、「そんなの国のやることかよ!」という声が必ず飛び交う。マンガ、アニメ、ゲームの海外人気が認知されたとはいえ、いまだサブカル扱いで、政策の俎上に乗せようとすると冷たい視線を浴びる。

 これを支援する政策に対しては、マンガ・アニメ・ゲームはお上と闘いながら民間だけで成長してきた、ヘタに手を出すな、との強い意見がある。民間だけでやってきたのはそのとおりだ。

 しかも、それら文化は昨今、突然立ち現れたものではなく、1000年以上の時間の中で、庶民文化として、皆が創造力を発揮することで、できあがってきたもの。社会構造やインフラを含む「総合力」が生み、育てたものだ。

 ネットやケータイでも日本はかなりポップで多様なジャンルを築いているが、それも同様。これからも新しいメディア技術が登場するたびに、その総合力を生かしてポップな文化を生んでくれることを期待したい。

 だが、だからこそ、そこには手を打つべき問題もあると思う。

 まず、そんな現状のポジションを日本は生かせていない。経済的にはコンテンツは成長産業どころか縮小傾向にあり、アニメの制作現場の悲惨さは笑えないギャグネタだ。政治的にも活用できていない。海外の若い世代にとって日本はソニーやトヨタよりもピカチュウやドラえもんだが、そのソフトパワーを外交に生かせてはいない。

 そして、現状が維持できるかどうかもおぼつかない。ポップカルチャーは定義上、流行文化であり、移ろうのが本質。今日のポップが明日のポップである保証はなく、別のポップや外国のポップに置き換えられることを覚悟せねばならない。では、日本が永続的にポップを生み、育て続けるメカニズムはあるのか。あるとは言えまい。政策が第一に考えるべきは、そのメカニズムとなる土壌を豊かにすることだと思う。

 なお、これは今回の短期型のポップカルチャー分科会ではなく、より中長期に関する知財計画の中で考えるべきテーマである。やまもといちろうさんは「知的財産権管理徹底、二次利用・情報発信のための著作権関連の法律整備、発信すべきもののレーティング組織」と対案を寄せてくださったが、こういう重要な論点は、今回の短期アイデアベースの分科会ではなく、常設の知財本部でどっしりと取り組まなければならない。

 そう、今回の会議は同じ内閣官房でも知財本部とは別の建て付けで、しかもさらに多くの省庁がぶら下がっていて、政府全体としての戦略が描きにくい。参加型の政策にはしたいのだが、「誰が作るのか」が一番の課題として浮かび上がる。

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中村伊知哉(なかむら・いちや)

慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。

京都大学経済学部卒業。慶應義塾大学博士(政策・メディア)。

デジタル教科書教材協議会副会長、 デジタルサイネージコンソーシアム理事長、NPO法人CANVAS副理事長、融合研究所代表理事などを兼務。内閣官房知的財産戦略本部、総務省、文部科学省、経済産業省などの委員を務める。1984年、ロックバンド「少年ナイフ」のディレクターを経て郵政省入省。通信・放送融合政策、インターネット政策などを担当。1988年MITメディアラボ客員教授。2002年スタンフォード日本センター研究所長を経て現職。

著書に『デジタル教科書革命』(ソフトバンククリエイティブ、共著)、『デジタルサイネージ戦略』(アスキー・メディアワークス、共著)、『デジタルサイネージ革命』(朝日新聞出版、共著)、『通信と放送の融合のこれから』(翔泳社)、『デジタルのおもちゃ箱』(NTT出版)など。

twitter @ichiyanakamura http://www.ichiya.org/jpn/


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