「やったー! ちゃんと電源入ったー! 」。うれしそうな子どもたちの歓声が工場内に響き渡る——。パナソニックのITプロダクツビジネスユニット神戸工場が開催する「手づくりレッツノート工房」での光景だ。
手づくりレッツノート工房は、モノづくりの喜びを伝えることをテーマに、同社でPCの生産を行う神戸工場で開催され、今回で12年目を迎えるイベントだ。毎回50人の子どもたちを抽選で応募し、パナソニックのノートPC「レッツノート」を手作りする。夏休みの終わりに開催され、自分で作ったPCを持って帰ることができるため、毎回当選確率は10倍前後という人気ぶりを示している。
工場が自発的に始めた交流イベント
手づくりレッツノート工房はもともと工場が自主的に始めたイベントだ。「生産活動を行うだけでなく地域に対して何か貢献できないか」ということを模索し、何もノウハウがない中から開催を続けてきた。12年(13回)の開催を経て、今では神戸工場はもとより、PCを担当するITプロダクツ事業部全体の中でも重要なイベントの1つとなっている。
手づくりレッツノート工房を楽しみにしているのは、子どもたちだけではない。実は受け入れる側の工場の社員も非常に楽しみにしているという。
工場にとって生産効率の向上は大きなテーマではあるが、工場社員にとって、作業の効率化ばかりに意識が固まりすぎると、社員自体もモノづくりの楽しさを忘れてしまいがちになる。手づくりレッツノート工房では、抽選で通った子どもたち50人に対し、25人の“先生役”が付く。これを工場の社員が務めるため、新鮮な子どもたちの反応に触れることで「モノづくりの初心に帰れる」と多くの社員が喜ぶ。
世界に1つだけのレッツノート AX3
今回の手づくりレッツノート工房は2013年8月24日に開催され、北は宮城県、南は鹿児島県から50人の子どもたちとその父兄が集まった。今回作ったのは「Let'snote AX3」シリーズ。スペックなどはPC USERの記事(Haswell搭載で13時間駆動、ディスプレイはフルHD+IPS液晶に——「Let'snoteAX3」)が詳しいが、2013年6月に発売されたばかりの最新のコンバーチブルモデルだ。
手づくりレッツノート工房は、「世界でたった1台のPCを作ろう」をキャッチフレーズとしているが、コンバーチブルモデルを手づくりするのは初めてのこととなる。薄型・軽量で構造もやや複雑であり「例年難しいポイントはいろいろあるが、今回の組み立てはかなり難しく心配した」と“教頭”を務めたパナソニック AVCネットワークス社 ITプロダクツ事業部 プロダクトセンター(神戸工場) 所長(工場長)清水実氏は話す。
全19工程による組み立て作業と、製品検査工程を、実際に子どもたちが行う。実際の工程ではこの2倍程度の工程となるが、子どもたちでも時間内に組み上げられるように複雑な工程は既に組み上げたものを使った。子どもたちは90分かけて組み立てるが、実際の生産現場では7〜8分程度で1台を組み上げるという。
現場でもこれらの熟練した“先生”の行き届いた指導により、全員が無事にPCを完成させることができた。電源を入れた時には画面に「やったね!」という言葉が表示されるなど、細部まで工夫が行き届いている。ちなみに過去の手づくりレッツノート工房で、完成したPCが動かなかったケースは一度もないという。
最後に検査を行い、完成したPCを持ち帰ることになる。最終検査は熟練社員が行い、その間は工場見学などを行う。帰りは、関わった全社員が1人1人を見送るなど、心のこもったおもてなしを演出する。
パナソニックだからできること
手づくりレッツノート工房にはパナソニックのPC部門の強みがある意味で凝縮されている。PC組み立て教室を行うところは多いが、工場で生産されている最新機種を、実際の工場で普段組み立てている社員たちが教えるようなものは珍しい。また、それを12年間も続けてきているのはなおさら貴重だ。
それにはパナソニックが製品開発から生産まで一貫して自社で行うことにこだわってきたことが大きい。また神戸工場がPC部門の戦略拠点として、モノづくりの面で高い能力を持っていることも背景にある。PCは、コモディティ製品の典型例とされ、生産の海外シフトや外部委託化が早く進んだ分野でなおさら特長が際立つ。一般的な流れの逆を行くパナソニックの目指すところは一体どこにあるのだろうか。
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