←・前編:そのデータ保存法で本当に問題ない?——自宅兼オフィスのNAS環境を見直す
前回は自宅+簡易オフィス向けのNASにトラブルが発生し、環境の移行を決定、QNAPの中小規模事業者向けモデル「TS-469 Pro」を選んだ。NASで利用することを意識した高耐久性のSATA HDD「WD Red」シリーズ(Western Digital)も同時購入した。
実際に購入し、セットアップして使い始めるまでの作業はさほど難しいものではない。ネットワークエンジニアではない筆者でも、サクサクとマニュアルなしで作業できるほどだ。基本的な導入の流れは簡単に記すが、機能やスペックはメーカーのWebページを見れば分かる。編集部から「後編は導入や設定の記事ですか?」と聞かれたが、筆者がその辺りの「再確認」を記すことに、あまり意味はないだろう。
そこで、後編は「実際に使い始めてから痛感したこと」を中心に進めていきたい。
NAS選びの本質はソフトウェアにあり
前回は「トラブりました」から「買いました」までを報告したが、その後、「使い続けた結果」として痛感していることがある。それは、僕らが買うような個人や小規模事業者向けのNASは、本質的な価値がソフトウェアに集約されている、ということだ。あるいは大規模なエンタープライズ向け製品でも、根っこの部分は同じかもしれない(が、そちらは経験がないのであくまでも推測だが)。
これから少し高機能、高性能なNASを選ぼうという人は、その点について意識をしながら選ぶとよいだろう。例えば筆者が選んだTS-469 Proは、Intel Atomプロセッサ内蔵のQNAP製NASの中でも最新モデルの1つだ。もっとも、最新といっても製品の大枠が世代ごとに大きく違うわけではない。
このクラスのRAID機能付きNASは、必要数ぶんのSATA対応HDDスロットを持つ“小さなPC”といった風情の作りになっている。ハードウェアのRAIDコントローラは搭載されず、RAID機能もソフトウェアで実装されているものがほとんどだ。
もちろん、世代が新しくなればハードウェアのプラットフォームは新しくなる。TS-469 Proも同じで、内蔵するAtomの動作速度は速くなっているし、内蔵するHDDのインタフェース速度も前世代の2倍になった(とはいえ、ファイル転送の帯域はギガビットイーサネットなので、あまり意識することはないと思う)。メモリは1Gバイトを搭載しているが、最大で3Gバイトまで拡張可能だ。
しかし、PCとは異なり、コンピュータとしての性能がすべてではない。NASのハードウェアにおける本質的な価値は、簡単に着脱できるドライブベイスロットの構造や、(使う場所によっては)盗難・いたずら防止のセキュリティロック、電源の信頼性や静粛性、コンパクトさなどだろう。
とはいえ、昨今のRAID NAS製品に関して言えば、これらの要素はおおよそカバーしている。
環境移行前に筆者が使っていたバッファローのRAID NASは、いずれもMarvellのプロセッサを使ったもので、ハードウェアプラットフォームそのものに問題があったわけではない。動作音は静かだったし、5年間電源を入れっぱなしでも電源回路がダメになることはなかった。鍵付きではないが、ドライブベイの出し入れは十分にやりやすい。
共振しやすい部分があり、たまに出る異音の対策には工夫が必要だったが、言い換えれば、そうした部分にRAID NASを選ぶためのポイントは潜んでいないということだろう。
今回選んだQNAPにも、低価格のMarvell製プロセッサ搭載モデルはある。それらが役立たずかと言えば、そんなことはない。パフォーマンスはAtomのほうが上だが、単にファイルサーバとして使うぶんには大きな性能差は感じないだろうし、何らかのアプリケーションを動かす場合も、規模の大きなパッケージソフトを導入したり、多数のアクセスがあるECサイトを構築しようと思わなければ十分だ(NASといっても中身はPCなので、インストールするパッケージ次第でサーバとしても利用できる)。
結局のところ、導入規模や目的に応じて性能や搭載ドライブの数などを選んでおきさえすれば、ハードウェアの使い勝手は製品ごとに大きくは違わない。
しかし、ソフトウェアはそうはいかない。前述したように、このクラスのRAID NASはソフトウェアでRAIDを動かしており、ハードウェア実装のコントローラを使っているわけではない。再構築時も100%ソフトウェアで実行される。
「ソフトウェアで実行される」こと自身が問題になるわけでない。しかし、OS、RAID機能、HDDトラブル時のリビルド、あるいは完全にストレージの内容が失われたときに、きちんとシステムが立ち上がるのか。そして、HDDが健全な状態でハードウェアにトラブルが発生した場合に、どのような振る舞いになるのか。さまざまな事態に対して、きちんと対応できているソフトウェアであるかどうかが重要ということだ。
PCプラットフォームを活用し、ホットスワップが可能なドライブベイの筐体を用意すれば、後はオープンソースのRAIDあるいはNAS関連ソフトを集めてくれば、とりあえず動作はする。しかし、“信頼感”となると、別の切り口も必要だ。
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