杉山淳一の時事日想:鉄道業界に個人情報を任せられるのか (1/6)
JR東日本が日立製作所へSuicaの乗降履歴データを販売——。この件で不安の声が上がった。それは「個人情報」についての理解不足と、「個人情報」に過敏な世相を反映した結果だ。こうした反応に対して、鉄道会社はどう対処すべきだろうか。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP、誠Styleで「杉山淳一の +R Style」を連載している。
JR東日本が日立製作所へSuicaの乗降履歴データを販売す——。この件に反発した利用者から、データ削除要望が8823件も寄せられている(参照リンク)。
「JR東日本が無断でSuicaの乗降履歴データを販売するなんてけしからん」……その気持ちが私には理解できない。確かに自分が使っているSuicaのデータも保存されているわけで、販売されたデータは「自分が関わるデータ」だ。断りもなしに使うな、と感じるだろう。ただし、JR東日本はその部分に慎重で、個人が特定できる情報は販売していない。「JR東日本が無断で個人情報を提供した」とは、いわれなき批判だ。本件は「個人情報に関する理解が社会に根付いていない」という現実を明らかにした。
JR東日本が日立製作所に販売した乗降履歴データは、性別や生年月(日は除く)、乗降駅、利用日時、鉄道利用額、SuicaのID番号を変換した番号だ。これらは個人を特定できる情報ではない。JR東日本はSuicaのID番号を別の番号に不可逆変換したと説明した。これは余計なことを言ったと思う。不可逆変換とは、「変換の手順を公開しないから、返還前の元のID番号は分からない」という意味だ。しかし、返還前と返還後の番号が、一定の手順でひも付けされていることに変わりはない。「自分の情報に新しい番号が付いただけ」と思ってしまう人もいるだろう。実際は変換手順も返還後の番号も公開されず、SuicaのIDはJR東日本の外には出ないから、Suica利用者の特定はできない。
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