現在のところ、2013年におけるエレクトロニクス業界での買収件数は、特に多いというわけではなさそうだ。しかし、その中でも特に注目すべき買収契約がいくつか挙げられる。2013年に発表または完了された買収のうち、今後数年にわたるエレクトロニクス業界の展望に影響を及ぼす可能性がある5件の買収事例について、以下に取り上げてみよう。
Micronによるエルピーダメモリの買収
米国の半導体チップメーカーであるMicron Technologyによるエルピーダメモリの買収は、メモリ業界にとってかなり大きな出来事であった。買収金額は25億米ドルで、買収は2013年7月末に完了したばかりだ(関連記事:「社名がマイクロンになってもエルピーダの火は消えない」、坂本社長が退任の弁)。
買収が完了するまでには丸1年を要した。規制当局の承認を得る必要があった他、エルピーダの社債権者から、「エルピーダの資産価値が過小評価されている」とする不満の声が上がっていて、それを解消しなくてはならなかったからだ。
エルピーダの買収により、Micronは、Samsung Electronicsに次ぐ世界第2位のメモリチップメーカーの座を獲得する。また、サプライヤの数が減ることでメモリチップの生産量をコントロールしやすくなるので、メモリ市場は安定すると期待されている。
CadenceによるTensilicaの買収
EDAベンダーであるCadence Design Systemsは2013年3月、データプレーンプロセッシング向けIP(Intellectual Property)ベンダーのTensilicaを約3億8000万米ドルで買収すると発表した。買収は2013年7月に完了している。Cadenceは、シリコンIP分野においてSynopsysに追いつくための戦略の一環として、この買収を実施したとみられている(関連記事:ケイデンスがテンシリカを約366億円で買収、ARMとの連携を拡大へ)。
ASMLによるCymer買収
リソグラフィ装置ベンダーであるASMLは2013年5月末、リソグラフィ光源技術を手掛けるCymerを、26億米ドルで買収する契約を締結したと発表した。ASMLにとってCymerは、長年にわたりサプライヤでもあった。
買収の目的は、EUV(極端紫外線)リソグラフィ光源の開発を確実に主導していくことだとされている。EUVリソグラフィ技術は今後数年の間に、IntelやTSMCなどの大手半導体チップメーカーにとって、喉から手が出るほど欲しい技術になっていくだろう。しかし現状は、主にソースパワーや安定性などに関する問題がネックとなり、期待されている成果からは程遠い状況にある。
Dialog SemiconductorによるiWatt買収
ミックスドシグナルおよびパワー半導体チップ、RFチップの製造を手掛けるDialog Semiconductorは2013年7月、電源管理ICの先駆的企業であるiWattを3億1000万米ドルの現金で買収する契約を締結した。買収後に、一定の業績目標を達成できた場合には、買収金額を最大で3500万米ドル上乗せする予定だという。
DialogがiWattの買収を発表したのは、Dialogが買収先を探していると公表してからわずか数カ月後のことだった。Dialogはこの買収によって、固体素子照明(SSL)LED向けドライバや、AC/DCアダプタ/充電器などの分野において、同社の位置付けを高められるとみている。
CiscoによるUbiquisys買収
2013年4月、Cisco SystemsはUbiquisysを買収すると発表した。Ubiquisysは、3G(第3世代)やLTEに対応したスモールセル技術を手掛けている企業である。買収金額は3億1000万米ドル。
Ciscoは2012年12月、同社の家庭向け通信機器事業部門であるLinksysをBelkinに売却することを検討中だと明かした。Linksysは、Ciscoが2003年に5億米ドルで買収した企業である。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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