2001年10月に発売されたWindows XPは、Microsoftによる延長サポートが2014年4月9日(日本時間)に終了する。発売から12年以上もサポートが継続してきただけに、XPユーザーの割合は今なおPC全体の3〜4割を占めているほど。MicrosoftやPCベンダーなどが、XPからWindows 7や8への移行をユーザーに訴求してはいるものの、当初想定されたほど大きな盛り上がりをみせてはいないようだ。
米Net Applicationsの調査によると、6月時点におけるXPのシェアは37.17%、7月時点でも37.19%と、ほとんど変化がない。一方、Windows 7は44.37%から44.49%に、Windows 8は5.1%から5.4%にそれぞれ増えている。国内の状況は、ジーエフケー マーケティングサービス ジャパンが8月13日に発表した法人市場での調査データによれば、人員規模によって若干の違いはあるものの、XP利用率は4割を超える状況になっている。
「移行せず」で2つのデメリット
サポート終了もXPを使い続ける最大のリスクがセキュリティだといわれる。サポート終了とは、すなわちMicrosoftが毎月提供している修正プログラムが提供されなくなることだ。これまでXPのサポート期間が何度か延長されてきたが、同社はサポートを終了する方針を明確に打ち出している。2014年4月10日以降はどんなに危険な脆弱性が発見されても、同社から修正プログラムが提供されることは、まず無いと考えていいだろう。
セキュリティソフト企業のESETが研究者のコメントを引用して伝えるところでは、現在アンダーグラウンド市場ではXPの非公開の脆弱性に関する情報が従来の2倍以上の高値で取引されているという。サイバー攻撃者にとってXPのサポート終了は、大量の金銭を搾取できる可能性を秘めた一世一代のチャンスであるようだ。
同社は、サイバー攻撃者がサポートの終了直後から一斉に脆弱性悪用攻撃を仕掛けるための準備を進めているとみる。4月10日以降にXPの脆弱性を悪用する多種・大量のマルウェアの出回り、マルウェアによる情報窃盗やネット詐欺などの被害が世界中で発生するかもしれないと危機感を募らせている。
企業にとっては、XPを使い続けることのリスクがほかにもある。上述のセキュリティのリスクに端を発する「評判」のリスクだ。「セキュリティ的に危険だというXPを使っているあの会社は危ない」というネガティブイメージの拡散である。
法人向けにXPの移行支援を手掛けるITサービス会社の担当者によれば、XPからWindows 7あるいは8への移行を決めた企業の中で特に目立つのが、金融機関や保険会社における大規模移行プロジェクトの多さだ。
金融機関や保険会社では非常に機密性の高い個人情報などを顧客先で取り扱うシーンが頻繁にあるだけに、顧客の目の前でPC画面を表示したときに、「御社のPCはXPですか? 大丈夫ですか?」と疑念を抱かれたら商機がつぶれてしまう。昨今の少子高齢化によって、これらの業界では新規顧客の獲得が難しくなっているだけに、実際のセキュリティ対策はもとより、ネガティブイメージの拡散リスクを防ぐ意味でも、Windows 7や8への移行に積極的なのだという。
移行しない理由
上述のようなリスクがあるにもかかわらず、XPの利用が減らないのはなぜだろうか。その理由としては、「XP以外の環境に移行できない」「お金がない(出したくない)」の2点になるようだ。
前者の理由では業務アプリケーションの稼働環境が大きく影響している。XPを念頭に開発されたシステムは古いものが多く、ベンダーや開発したSIerによるサポートが既に終了していたり、サポートの継続を依頼しても、改修などのために高額な追加コストを求められたりする。仮想化によって“延命処置”できる場合もあるが、そのためにも少なからずコストは発生する。
後者の場合、「セキュリティは心配だが、そのためだけにお金はかけたくない」というのが本音のようだ。XPと同時にOffice 2003のサポートも終了するため、OSとOfficeを同時に新しい環境へ移行するとなれば、ライセンスコストだけでもそれなりの規模になると考えてしまう。「(セキュリティ以外に)問題が無いに、なぜ変えなくてはならないのか!」といった気持ちもあるだろう。
確かにユーザーがXPから移行しなければ理由がデメリットばかりでは、積極的にはなりづらい。その反面、XPの継続利用によってメリットが生まれるという声は聞こえてこない。「XP以外に方策無し」「本当にお金がない」とやむにやまれない状況を除けば、XPを使い続けるための大義名分もないわけだ。XPの継続利用を喜ぶのは、それによって金銭の獲得を期待するサイバー攻撃者くらいである。そうであれば、企業にとってXPの移行は、むしろ新たなメリットを得るチャンスと捉える方が良いだろう。
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