イー・モバイルの、この夏の目玉といえる商品が、下り最大110Mbpsの高速通信を実現し、5000mAhの大容量バッテリーを備えるモバイルWi-Fiルーター「Pocket WiFi(GL09P)」だ。WCP(Wireless City Planning)が提供しているAXGP(2.5GHz帯)と、従来の「EMOBILE LTE」(1.7GHz帯)、そしてイー・モバイルのW-CDMA(1.7GHz帯、EMOBILE G4)とソフトバンクのW-CDMA(1.5GHz帯、ULTRA SPEED)という、幅広いネットワークをサポートする。また、ソフトバンクモバイルも「Pocket WiFi 203Z」という製品名で同一のモバイルWi-Fiルーターを発売した。
マルチネットワーク対応のPocket WiFiを投入する狙い、スマートフォンへの取り組み、そしてソフトバンクとの連携も含め、イー・アクセスとして今後どのようにモバイル市場を攻めていくのかを、イー・アクセス サービス戦略本部 副本部長 兼 サービス企画部 部長 兼 カスタマーサービス部 部長の筒井雅彦氏に聞いた。
Pocket WiFiは共同調達しなかったら「月額3880円」は厳しかった?
AXGPについては、新たに「EMOBILE 4G」というブランド名で通信サービスを展開する。このネーミングの意図について筒井氏は「ソフトバンクが市場に対して訴求している言葉が一番伝わりやすいと考えました」と話す。また「ソフトバンクさんからは、端末(203Z)にPocket WiFiという名前を採用いただいているので、お互いに、認知度の高い名称を使うことにしました」と同氏。一方で、「AXGPを訴求するのは難しい。認知的には4Gですが、LTEと言えないので……」との悩みもある。ユーザーから「EMOBILE 4GとEMOBILE LTEの違いは?」と問い合わせがあった場合は「4Gの方が最高速度が速い」と答えているそうだ。
EMOBILE 4Gというサービス名は、イー・アクセスが提供している下り最大42Mbpsの3Gサービス「EMOBILE G4」と似ていて紛らわしいが、「G4の表記は徐々に下げていく」(筒井氏)とのこと。G4と4Gが混在することは少なくなりそうだ。
イー・アクセスとソフトバンクモバイルで同じ端末(Pocket WiFi)を出すことが決まった背景については「(イー・アクセスとソフトバンクで)シナジーを出すために、共同でサービスを作っていく中で、特にPocket WiFiについては、スマートフォンほど端末のカラーを出す必要はなく、共通のプラットフォームで作りやすいとお互い考えました」と筒井氏は話す。
また、ソフトバンクモバイルと共同調達したことによって、ボリュームメリットが生まれ、端末価格も下げられたという。実際、「4Gデータプラン(にねん)」で新規契約、「バリュースタイル」に加入すれば、端末代の4万800円は実質0円になる。月々の通信費は、「ずっとおトク割」によって月額3880円に割り引かれるが、この価格設定は「1社だけだと厳しかったかもしれません」と筒井氏はみる。決して赤字覚悟の価格というわけではなく、共同調達によって端末原価を下げられたことで、大胆な価格に踏み切れたようだ。
「Pocket WiFi(GL09P)はスペックも向上しているので、利用料金も上げるのでは、という議論はありましたが、あえて従来と同じ料金(3880円)にすることで、よりシェアを拡大する狙いがあります。(データ通信市場は)競争が激しいので、ここで値上げをすることでシェアが落ちる恐れがあったので、踏み込んでシェアを取りたいと考えました」(筒井氏)
一方で「カニバリの議論もありました」と筒井氏は話す。つまりターゲット層が同じ製品を2社が販売することで、お互いのユーザーを取り合ってしまうのではないか、という恐れだ。だが筒井氏は、2社でうまく棲み分けができると考える。「Pocket WiFi(GL09Pと203Z)は、ソフトバンクモバイルさんは主に店頭で売っていて、スマートフォンと一緒に販売することが多いです。イー・アクセスは量販店、特にPCコーナーでPCとセットで販売しています。PCやタブレットとセットにして、端末の初期費用を減らす料金プランは、イー・モバイルだけが用意しています。Pocket WiFiは認知度が高いので、お互いが販売する方がいいのでは、と考えました」
EMOBILE LTE対応スマートフォン「STREAM X(GL07S)」とPocket WiFi(GL09P)をセット販売して割り引く、といった施策は現在は考えていないそうだが、「今後やっていかないと……と考えています」とのこと。
今後イー・アクセスが発売するモバイルWi-Fiルーターは、基本的にEMOBILE 4GとEMOBILE LTE対応になる見込み。「現状だとLTE単体のルーターを出しても弱いので、AXGP対応の製品を、しばらくは出すのかなと思っています。今後、より高速なサービスが出てくれば、検討します」
AXGPとLTE、両方をカバーするエリアにいる場合、どちらのネットワークを優先するのかは気になる。この点については「公表していない」(イー・アクセス)が、一般的には、通信の速い電波を優先してキャッチするはずなので、AXGP→LTEという順番になると推測される。なおPocket WiFi(GL09P)では、特定のネットワークのみをオフにすることはできない。
EMOBILE 4G+EMOBILE LTE対応スマホも登場する?
EMOBILE 4GとEMOBILE LTE対応製品を、スマートフォンではなくルーターからとしたのは、「イー・アクセスの主力はPocket WiFiなので、まずはここを強化することで、より競争力の高めていく」(筒井氏)ため。加えて、発売タイミングの問題もあったようだ。「春時点でSTREAM Xが出ることも見えていましたが、(EMOBILE 4GとEMOBILE LTE対応となると)スマホの方が発売までに時間がかかるので、(タイミングが)ミートしませんでした。営業はいくらでも欲しいと言うんですけど(笑)」
EMOBILE 4GとEMOBILE LTEの両方をサポートしたスマートフォンが発売されることは「十分あると思っています」と筒井氏。Pocket WiFiに続く、マルチネットワーク対応のスマートフォンにも期待したい。
マルチネットワークといえば、3月に発売したSTREAM Xも、EMOBILE LTE(1.7GHz帯)に加えて7月25日からSoftBank 3G(2.1GHz帯)に対応し、ソフトバンクとのシナジー効果が生まれている。端末代を含めて月額3880円という料金と、7月18日に新色のホワイトを発売したこともあって、「売れ行きはあまり落ちていない」(筒井氏)そうだ。「電話機としては、(イー・モバイルのみだと)エリアが狭いというご指摘をいただいているので、統合の効果が出ています」と筒井氏は手応えを感じている。
今まで、イー・モバイルのスマートフォンは2台目として使われるケースが多かったが、イー・アクセスの調査によると、STREAM Xは「半分以上の方がメイン(1台目として)で使っている」という。「これまで、弊社のスマートフォンは、発売時点で他社の製品より見劣りしていたものが多かったですが、STREAM Xでようやく他社の“中の中”くらいまでは行けました。料金も安く、手に取ってみると、それほど質感が悪いわけではない。中味も非常に良くて、速度も含めてデータ通信をするには最適だと思います」と、筒井氏は端末のクオリティにも自信を見せる。
夏モデルのスマートフォンは、ソフトバンクの「ARROWS A 201F」と同一のハードウェアを用いた「ARROWS S(EM01F)」のみ。端末自体のインパクトは弱いが、下り最大76Mbpsの4G通信を月額3880円で利用できるのは魅力だ(201Fで「パケットし放題フラット for 4G」選択時は月額5985円)。ARROWS Sのケースとは逆に、STREAM Xのようなイー・モバイルのスマートフォンを、ソフトバンクモバイルと共同で販売することも「あるかもしれない」(筒井氏)が、「料金面で、独自色を出していきたい」という姿勢は変わらない。
STREAM XやARROWS Sなどの高速通信とテザリングに対応したスマートフォンがあれば、モバイルWi-Fiルーターの出番はなくなるのでは……との見方もあるが、筒井氏は「スマートフォンとデータ通信端末は、利用方法が違う」と考える。「一番の違いはバッテリーの持ちです。STREAM Xでテザリングを(何時間も)使うと1日は持たないでしょう。一方でPocket WiFiは14時間持ちますし、モバイルバッテリー代わりにも使えます。今までスマートフォン、ルーター、モバイルバッテリーの3台を持ち歩いていた人は、Pocket WiFi(GL09P)があれば、モバイルバッテリーは不要になるでしょう。カバンに(Pocket WiFiを)オンにして入れっぱなしで、帰宅してもバッテリーが持っているというのが、お客様の求めるところ。一般的な利用には差し支えないのではと思います」(筒井氏)
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