「Kiip」の創業者Brian Wong(ブライアン・ウォン)氏は、現在22歳。カナダのバンクーバー出身で、19歳のときにKiipを創業した。
Kiipは、新しい広告のかたちを提案するサービス。ユーザーがアプリを起動中、広告主からユーザーにクーポンなどを配信できる仕組みだ。さまざまな行動に対し、アプリ側であらかじめ設定した目標値に達すると、ユーザーは企業から特典が受けられる。一方、企業は従来型のテキスト広告やバナー広告を出すより遥かに高いクリックレートが見込めるとして、今、注目を集めている。
2013年7月24日、Open Network Spaceで開催されたミートアップで、来日したBrian氏に話を聞いた。
会ったこともないCEOにメールを送ることを思い付いたBrian氏
Brian氏は、バンクーバーの若手支援プロジェクトの一環により、IQテスト受けて2・7・9・11年生の4年間を飛び級。18歳でコロンビア大学を卒業した。
シリコンバレーに憧れを抱いていた彼は、卒業後シリコンバレーに視察旅行に出かけた。そのときのエピソードが興味深い。CEOのメールアドレスを片っ端から推測し、会ってくれるようにメールを送ったという。「CEOに会うことは、簡単。メールアドレスを推測し、キャッチーな件名を考えて送るだけ。皆、そんなことはできないと思っている。しかし、僕はそうやって何人ものCEOと会うことができた。誰もやらないから、そこにチャンスがある」と、Brian氏は言う。
彼は、会ったこともないCEOにどのようなメールを送ったのだろうか。筆者はBrian氏に交渉し、実際に彼がCEOに送ったメールを入手した。
From: Brian Wong
Date: Thursday, September 17, 2009
Subject: 18-year-old university biz grad, social media wunderkind, heading to San Francisco
To: XXX@XXXXXXXXXXX
Hi Asad,
Congratulations on another successful TechCrunch50!!! I'm sure with the world following you guys there was enough fun to go around for the past few weeks =)
I wanted to quickly sum in the following paragraphs why I would like 15 minutes of your time to meet in person while I travel through San Francisco in the next week (September 24th-25th). I've been invited to speak on a panel at the 140tc Twitter conference in LA, and I've booked a flight up to San Fran to meet super cool people just like you.
I'm an 18-year-old university graduate out of UBC. I interned in PR at 1-800-GOT-JUNK? before my summer officially started, and then took my summer to create Followformation.
Followformation is a Twitter app that allows users to quickly follow top tweeters by category. It was launched mid July and was covered by Mashable, and then The Examiner, who called us the "Alltop for Twitter" - and then Killer Startups, and most recently, Fast Company. Followformation is still tweeted about daily, and is touted as one of the best tools for social media novices to get started with Twitter.
My goals in the next few months are to find my groove in social media with worldwide brands and to relocate to an exciting region of the world to begin the next steps of my life.
I think you would be a super duper cool person to meet, and I'd love to learn more about what you do and how exciting life can be as the Events Director for TechCrunch.
Cheers!
Brian
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Brian Wong | Cell: XXX-XXX-XXXX
www.twitter.com/brian_wong
メールでは、自分の実績を書き、いかに自分が素晴らしい人間であるかをアピールした。それだけではない。Brian氏は、1通1通メールの内容を書き分けた。CEOの経歴や性格がそれぞれ異なるためだ。また、メールを送る時間にもこだわった。メールが埋もれてしまうことを懸念し、昼間ではなく朝の8時前か夜の19時以降に送った。
Brian氏は語る——「この行動の原点にあるのは、ベトナムに初めて旅行したときの体験だ。信号のない交差点で、僕はなかなか道を渡ることができずにいた。車は、容赦なく走っている。しかし、周りの人は、車の隙を見つけてはスーっと渡っていく。このとき、僕は学んだ。世界では、いろいろなことが同時に、ものすごいスピードで起きている。そこを渡ろうと思ったら、自分はただ目的地を見て歩くだけ。他のところに気を取られていれば、他の人にどんどん追い抜かれていく。人は、車にひかれないように、自分の身を守ろうとする。しかし、それでは道を渡ることはできない」。
こうして彼は、着々と人脈を作っていった。そこで知り合った知人の紹介で、当時一世を風靡したソーシャルニュースサイト「Digg」で働くことが決まった。
6カ月後に解雇、そして「Kiip」が誕生した
しかし6カ月後、Diggは米ヤフーに買収され、Brian氏は所属していたチームごと解雇されてしまった。ビザを失った彼は、1カ月の間、東南アジアを旅した。旅先で見たのは、若者がゲームに夢中になる姿だった。Diggで広告ビジネスを担当していた彼は、ゲームと広告を結び付けて新たなビジネスができないかと考えた。1週間悩み、彼は思い付いた——「ゲームをクリアしたときに、広告主からクーポンなどをプレゼントされたらうれしいのではないか」。こうして、Kiipのアイデアが生まれた。
再びシリコンバレーに戻ったBrian氏は、いくつかの起業支援プログラムに応募した。しかし、結果はすべて不合格。だが、彼はあきらめなかった。Kiipのコンセプトやプロトタイプを、たくさんの人に見せて回った。そして、あるベンチャーキャピタルの目に留まり、3000万円の投資を受けることが決まった。
それから数日後、友人から1本の電話がかかってきた。電話の内容は「ベンチャーキャピタルから出資を受けているのか」というものだった。出資をする際、Brian氏の人柄などを裏で調査していたようだ。彼はこのとき、身近な人からどのように見られているかが重要だと気付いた。「多くの人は、環境に合わせて自分を変えるという選択肢を選ぶかもしれない。しかし、それでは通用しない世界になってきている。自分を環境に合わせて変えるのではなく、常に自分をブランディングする。自分は自分自身でなくてはならない」(Brian氏)。
イノベーティブな国、日本
Kiipは今年で創業3年目を迎え、2012年12月、日本進出を果たしたばかり。Kiipを日本で展開する理由について、Brian氏は次のように述べる。
「日本のテクノロジは、非常に進んでいる。Kiipを日本で展開する理由は、アメリカの数年先の技術を日本が持っているからだ。例えば、スマートフォンで買い物をしたりクーポンコードをかざすことは、アメリカではまだスキャナーが対応していないためできない。反射してしまって、うまく読めないのだ。しかし、日本では日常的に使われている。また、田舎のおばさんがスマートフォンで買い物をするなんて、アメリカでは考えられない。一方、日本ではそういった光景を何度も目にしている。
他にも、アイスクリームが自動販売機で売っていることに驚く。さらに、アイスを買うと箱に入って出てくる。溶けても手が汚れないようにという工夫までされていることに、驚かずにはいられない。
最も衝撃的なのは、地下鉄で3Gが通じること。これは、ニューヨークですらありえない画期的な取り組みである。日本では当たり前のことかもしれないが、他の国から見れば当たり前でないことが他にもたくさんある。そして何より、世界中の人が日本の文化をとても気に入っている。そんな日本の日常生活の中に、必ずビジネスのヒントがあると思っている」(同氏)。
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