アコースティックフィールドは12月15日、「HPL」の技術説明会を催した。HPLは、Head Phone Listeningの略で、その名の通りヘッドフォン/イヤフォンでのリスニングに最適化したハイレゾ音源を制作する技術だ。12月12日には、第1弾となる5タイトルがe-onkyo musicで配信を開始した(→関連記事)。
アコースティックフィールドの久保二朗代表はまず、「ヘッドフォンやイヤフォンで音楽を聴く人が急増しているが、楽曲はリスナーの左右前方に設置したステレオスピーカーで聴くことを前提に作られており、ヘッドフォンでは本来のミックスバランスで聴くことができない」と指摘する。現在の音源をヘッドフォンで聴くのは、いわばスピーカーを左右の耳にあてて聴いているような状態。結果として「センターが頭の中に現れ(=脳内定位)、左右の音は極端にワイドという“横一直線の定位”になってしまう」(久保氏)。
「制作者は、せっかく作った音楽をちゃんと聴いてもらえていない状態で、リスナーも本来のミックスバランス——音楽でいえば本来のアンサンプルを楽しめていない。ヘッドフォンやイヤフォンによる音楽リスニングが多数になりつつある現在、それに特化し、最適化された音源があるべきではないか」(久保氏)。
HPLの技術は、従来からあるバイノーラルプロセッシングを利用したバーチャル音場生成技術と基本的に変わらない。音楽を聴く部屋の特性、そして人の耳や頭によって生じる音の変化を伝達関数として用いて作成したFIR(Finite Impulse Response)フィルターがポイントだ。従来と異なるのは、ヘッドフォンでスピーカー再生時と同じミックスバランスになる音場生成を目的としていること、そして音楽リスニングに耐えうる高音質を実現したこと。
HPLの専用音源ファイルを配信するという販売スタイルもクオリティーの担保に貢献している。既存のバーチャル音響技術では、専用のハードウェアやソフトウェアを用い、再生機器側で処理するケースが多かった。しかし、それではプレイヤー機器の処理能力に依存することになってしまう。
「多くは端末にとって、(バーチャル音場技術は)オプション機能の1つに過ぎない。いかに少ないリソースで効果を出すか? という点が重視され、十分な能力が割り当てられない。結果として音質は二の次になってしまう」(久保氏)。
対してHPLでは、十分な処理能力が確保できる音源制作時に音場生成を行い、プレイヤー側に負荷はかけない。音質を確保できるうえ、再生機器を選ばないメリットもある。HPL技術を採用し、第1弾タイトルを発売したUNAMASレーベルの沢口真生代表は、「これまでのバーチャル音響技術は二律背反の性格を持っていた。音を広げようとすると残響感が出て、音質を上げようとすると大した効果が出ない。しかしHPLは見後に克服した。今後もリスナーの反応を見ながらHPLタイトルを出していきたい」と話していた。
エンコードというよりマスタリングに近い作業
アコースティックフィールドが作成したフィルターは、現時点で6種類ある。生楽器による大規模編成を想定した「クラシック系」、小編成の「ジャズ系」、電子楽器メインの「ロック、POPS系」で、それぞれにステレオとサラウンド(5ch)のフィルターが用意されている。音源によって微調整は必要だが、基本的にはPCのDAWソフト上でこのフィルターを適用すればHPL音源ができあがる仕組みだ。「エンコードといっているが、実際の作業はマスタリングに近いイメージ」(同氏)。
HPL処理をした音源は形式上、2chのリニアPCM(44.1k〜192kHz/24bit)となり、上記のように通常の音楽プレイヤーとヘッドフォンで再生できる。またMP3などに変換した場合でも「アンビエント(微細な音)が削られるため効果は減るが、なくなることはない」という。逆にHPL音源をスピーカーで再生する場合は、「スピーカー用の音源とは違うが、真剣に比較しなければ分からないレベル」。
なお、ベースがサラウンドの音源であっても販売時の形式は2chのため、従来より安く入手できる可能性もあるという。UNAMASレーベルの沢口氏は、「制作側にコストが発生するが、HPLはリスナーにはやさしい技術だ」と評した。
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