変革するMicrosoftのビジネスモデル
米アリゾナ州フェニックスで12月4日(現地時間)に開催された「Credit Suisse Technology Conference」にて、米Microsoftの最高執行責任者(COO)であるケビン・ターナー(Kevin Turner)氏が講演した。そこで明かされたWindows 10のロードマップを含む、同社の最新戦略が興味深い。
Windows 10が発表された9月末のイベントを紹介した連載記事でこの辺りの事情を説明したが、ホリデーシーズンを迎えた米国におけるWindows搭載製品の動向を紹介し、ここ最近のMicrosoftの戦略を振り返りつつ、今回のターナー氏による発表も加味したうえで、Windows 10の最新ロードマップを整理していこう。
米国では59.99ドルの7型Windowsタブレットが販売中
米国では11月最終金曜日よりホリデーシーズン商戦が開始され、今年は安価なWindowsタブレットやノートPC製品が話題になっている。
7月に米Microsoftが開催したイベントでターナー氏がHewlett-Packard(HP)の100ドルWindowsタブレットと200ドルノートPCをリーク的に発表して話題となったが、現在これらは「Stream 7」と「Stream 11」の名称で目玉商品として販売中だ。100ドルWindowsタブレットを発売したのはHPだけでなく、東芝の「Encore Mini」などもあり、ユーザーには複数の選択肢が提供されている。
さらに量販店のMicro Centerは、通常価格89.99ドルの自社ブランド7型Windowsタブレット「WinBook TW700(TW70CA17)」をホリデーシーズン商戦向け特価の59.99ドル(約7200円)で販売するなど、もはやメーカー側も利益が出ているのか怪しいレベルの激安製品まで登場し、ユーザーにとっては非常にありがたい状況になっている。遠からず、日本でもこの波が訪れるのではないだろうか。
さて、こうしたタブレットの低価格化を推し進める要因の1つになっているのは、間違いなくMicrosoftが設定した「9型以下のタブレットにおけるWindows OS無料化」の施策だ。これまでと違い、OSライセンス料がかからないため、Windowsという付加価値の高いソフトウェアを搭載したタブレットをメーカーは原価ギリギリに近い水準で販売できる。
そのため、100ドル(税抜)という以前では信じられないような低価格で販売されるタブレットであっても、メーカー側はある程度の利益を確保できているようだ。
OSを一部無料化したMicrosoftの狙いは?
ここで当然浮かんでくるのは、「OSを無料化してMicrosoftはどこで利益を得るのか?」という疑問だろう。これは2つの点で解消している。
1つは「エンタープライズ分野」での利益だ。Microsoftはここ数年における利益の3分の2程度はエンタープライズから得ており、もともと利益率の低いコンシューマー分野でのOSライセンス販売に依存するよりは、これを無料でばらまいてプラットフォーム拡販のための施策に利用しようと考えている節がある。
実際、Microsoftの過去数年の決算報告を見ると、「non-Pro」と呼ばれる一般コンシューマー向けのOSライセンス単価は目に見えて縮小を続けており、これは意図的に行われていると考えるのが自然だ。
もう1つが「サービスサブスクリプションを絡めた施策」の充実だ。日本におけるコンシューマー向けOffice 365サービスの開始や、Office 365ユーザー向けのOneDrive容量無制限化など、「モバイルファースト、クラウドファースト」の戦略を推し進めている。つまりはWindowsを無料化しつつも、ユーザーを有料サービスへと誘導してロックインする方向を目指しつつあり、どちらかといえば「ビジネスモデル転換」の側面が強い。
前述のターナー氏の講演は、このビジネスモデルの転換について触れている。この「ゼロ・ロイヤリティ」施策を発表しただけで対応製品が急増するなど、Androidに傾きつつあった低価格タブレットの世界が、Windowsを含めたより広いプラットフォームへと拡大しつつあるのだ。
またOfficeや.NETのクロスプラットフォーム化にも触れており、クライアントOSはWindowsにはこだわらず、AndroidやiOS向けにもサービスを提供し、あくまでフロントエンドデバイスのカバー領域を広げることで、ユーザーを広くMicrosoftのサービスへと取り込んでいくことが重要だとしている。
ターナー氏は「CAPEX(設備投資)からOPEX(運用コスト)へのユーザーの誘導」としているが、(ソフトウェアライセンス販売のような)買い切り資産ではなく、ユーザーからの定常的サービス料の徴収という、クラウドOS時代のビジネスモデルへのシフトを示唆した発言だろう。
またターナー氏がビジネスモデルについて触れた重要な2つのトピックがある。1つは「ライバルとの協業」で、矢継ぎ早に発表されたクラウドサービスやソフトウェア企業との一連の提携は、Microsoft製品の利便性を高めることが狙いであって、依然として提携企業のサービスとは競合が続いている点を強調する。
例えばIBMとの間では、NotesとExchangeで競合があるものの、DB2やWebSphereのAzureでの利用を可能にし、ユーザーの選択肢を増やす狙いがあるという。Dropboxなどでも同様で、明らかにOneDriveと競合するサービスではあるが、これもユーザーの利便性を重視して連携を行っている。
もう1つは「OEMメーカーの市場を奪う戦略」として厳しい評価もある「Surfaceのビジネス」だ。ターナー氏はOEMメーカーとの競合を強く否定しており、あくまで「2in1というデバイスでのイノベーションを加速させること」が狙いにあるとしている。OSプラットフォームベンダーのハードウェア事業参入は、垂直統合を実現しているAppleを彷彿(ほうふつ)とさせるが、Microsoftはまた違う方向性を目指していると考えられる。
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