新規2社が参入、KDDIも加わり3社が携帯電話事業を展開
東南アジア諸国の中で最も西に位置するミャンマー。1989年まではビルマと呼ばれていた同国は、1962年のクーデター以降、軍事政権が続いていた。そのため欧米先進国からの経済制裁を長期間受け続け、経済的発展も滞ったままだった。しかしその軍政も2011年にようやく終わりを迎え、ミャンマーは民主政府のもと経済開放政策を進めている。
例えば携帯電話事業も国営のMPT(Myanma Posts & Telecommunications、ミャンマー国営郵便・電気通信事業体)1社だけの独占状態が続いていた。大規模な投資もできず基地局の整備も遅れ、3Gの開始もようやく2008年になってからだ。携帯電話の普及率は2012年に急増したものの、それでもわずか11%にとどまっている。
ちなみに、東南アジア各国はプリペイドSIMと中国製の低価格携帯電話が広まっており、各国の携帯電話普及率は高い。2012年時点の状況はインドネシア(115%)、カンボジア(132%)、タイ(120%)、フィリピン(107%)、ベトナム(149%)、ラオス(102%)など、ほとんどの国で100%を超えている。ミャンマーの西に面するバングラデシュですら68%、インドが69%であることと比較しても、同国の10%台の普及率は断トツに低い状況である(数字は総務省のデータ)。
ミャンマー政府は2016年までに携帯電話普及率を80%に引き上げる目標を掲げ、携帯電話市場に外資の参入を決定。2013年に行われたオークションにはシンガポールやインドの事業者、日本のKDDI・住友商事グループなど世界中から11の企業体が2つの免許枠に殺到した。その結果、落札したのはノルウェーのテレノール(Telenor)と中東カタールのオーレドー(Ooredoo)で、両者には15年の事業免許が交付された。
一方、KDDI・住友商事グループは改めて2014年7月にMPTと共同事業運営契約を締結し、同国市場への事業参入を表明。オーレドーは2014年8月から、テレノールは2014年9月からそれぞれ事業を開始しており、ミャンマーの通信市場は外資3社による競争が2014年下半期から本格化している。
今回はミャンマーの旧首都であるヤンゴンを訪問。共同事業を行っているKDDI Summit Global Myanmar Company Limited(KSGM)を訪問し、Managing Directorの長島孝志氏にも現地の状況をうかがった。
まるで先進国? ヤンゴン市内はスマホだらけ
ヤンゴンを訪れたのは2014年11月。バンコクからエアアジアに乗り1時間ほどで到着する。経済発展が遅れている国の玄関だけに寂れていると思いきや、ヤンゴン空港は天井も高くロビーとは大きなガラスで仕切られたきれいな建物だった。とはいえ、到着ロビーに出ればタクシーの客引きがしつこいあたりは、ほかの東南アジア各都市と変わらない。だが、ここでちょっとした違和感を感じることになる。
ロビーには国際線の客を待つ地元の人や、ホテルやタクシーの客待ちなど多数のミャンマーの住人であふれ返っていた。その多くが片手に携帯電話を持ちメッセージを打ち込んだり、時間つぶしにゲームをしたり、保存したビデオを見たりしている。しかし見渡す限り、どの人も手にしているのはスマートフォンなのだ。
もちろん、今や東南アジア各国でもスマートフォンの普及は進んでいるが、タクシーの運ちゃんあたりはフィーチャーフォンとスマートフォンの2台持ちで通話はフィーチャーフォン、なんてケースもよく見かける。ところがヤンゴンの空港ではざっと見たところ、スマートフォンしか見当たらなかったのだ。
街中に出てみると、目抜き通りはもちろんのこと、路地裏の屋台の雨よけ傘などあらゆるところに新規参入したオーレドーとテレノールの広告が目立つ。そして同じように端末メーカーも繁華街を中心に大きな広告を掲げている。道端では野菜や新聞を売る屋台の人が、みな片手に携帯電話を持っているが、それらもほぼ全てがスマートフォンなのだ。ほかの東南アジア各国で見られる、Nokiaや中国製の低価格フィーチャーフォンを使っている人の姿は見られない。
ミャンマーで人気のスマホメーカーは?
では、ヤンゴンの人たちはどんなメーカーの端末を使っているのだろう。滞在中に街中を歩き回ってみたところ、最も目立っていたのがHuaweiだ。日本円で1万円を切る低価格な製品はもちろんのこと、大型画面で高価なファブレットを使っている人もよく見かけた。そしてビジネスパーソンなど給与所得の高い層の人はSamsung ElectronicsのGALAXYシリーズ、といった感じだ。それに対しiPhoneユーザーは全くといっていいほど見かけなかった。
街中でも屋台では中国製の無名ブランドのフィーチャーフォンも売られているが、人々が集まっているのは同じ無名ブランドでもスマートフォンを売っている屋台。また携帯電話屋が集まる通りにはHuaweiやSamsung Electronicsを押しのけるようにOPPO、VIVO、KEIBOといった中国新興メーカーの看板が目立っていた。これら新興メーカーは専門店もあり、また一般的な携帯電話ショップ内にも小さいながらも専用ブースを出展。その存在は大手メーカーと変わらない。
ほかの東南アジア諸国には見られないヤンゴンの市場の状況について、KSGMの長島氏は「何もない野原にいきなり自動車が大量にやってきたようなものだ」と説明する。MPTが独占し、鎖国状態だったミャンマーは、インフラ投資が進まず携帯電話のネットワークも貧弱で、SIMカードを発行する枚数も制限されていたのだ。
お金を持った海外からの観光客やビジネス客は現地で携帯電話を買うことができず、ごく一部の限られた人だけが回線を入手できたわけである。そのため、携帯電話の端末そのものも国内で販売される数が少なかったわけだ。しかも限定数販売されるSIMカードには希少価値が付き、本来1500チャット(約170円)で買えるSIMカードが転売市場では数万チャットと、30倍以上の値段で取引されていた。
つまりSIMカードを入手しても自分では使わずに売ってしまう人も多かったという。そのため、端末を販売しようにも、それを使うためのSIMカードが足りず、端末の販売がビジネスとして成り立たない状況が続いていたようだ。
ミャンマーの近隣諸国では、欧米など先進国同様に10年前からNokiaの端末が市場にあふれ返り、その後はSamsung Electronicsがシェアを伸ばし、スマートフォン時代になってからは所得の高い層を中心にiPhoneに人気が高まっていった。それと合わせるように中国産のノーブランドケータイも低所得者層に広く行き渡っており、今でも利用者は多い。
だがミャンマーではそもそも携帯電話を購入する消費者の数が少なかったのだ。各メーカーは3つの事業者が本格的に競争を始めたこの夏から端末販売を本格化しているが、今や各社ともにフィーチャーフォンの生産はほとんど行っていない。そのため、各社が販売する製品はほぼ全てがスマートフォンであり、ミャンマーの消費者の大半が最初に手にする携帯電話もスマートフォンになっているのである。
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