ワイモバイルは、今、SIMカードの単体販売に最も力を入れているように見える通信事業者だ。店頭には「格安SIM始めました」の文字が躍り、さながらその様子はMVNOのよう。12月4日に開始する「シェアプラン」にも、同様の発想が見え隠れする。シェアプランは、主回線に最大3回線をひも付けることが可能な料金プラン。主回線が「スマホプランL」なら、SIMカードの追加発行に月額料金はかからない。
シェアプランと同時に、端末の単体販売も開始するという。SIMロックがかかっているのは残念だが、タブレットの「MediaPad M1 8.0」は、主回線にプラスして持つことを想定した端末。価格を抑えた端末を導入したのもそのためで、本体を一括で買い、シェアプランで通信を行うといった購入スタイルを想定している。
MNOといっても、ワイモバイルが単体で提供するSIMカードは、建て付け上、ソフトバンクモバイルのMVNOという形になっている。ただし、1.8GHz帯(Band 3)のLTEについては、ワイモバイルが持つ周波数帯で、設備も同社のもの。その回線をソフトバンクが借りているという形だ。純粋なMNOでもなく、かといってMVNOとも言い切れない、面白い存在といえるだろう。では、なぜワイモバイルがSIMカード単体での販売に踏み切ったのか。そこにはシェアプランにも共通する、狙いがあった。ワイモバイルの取締役兼COO 寺尾洋幸氏に戦略を聞いた。
端末代と通信料を分離して、適切な価格で売らないといけない
—— ワイモバイルがSIMカードの単体販売に力を入れたのには、どのような狙いがあったのでしょう。もちろん大手3キャリアも端末を持ち込めば契約はできますが、ワイモバイルほど積極的にはSIMカードだけでの販売を打ち出していません。
寺尾氏 もともと、僕らの新しい料金プラン(スマホプランS/M/L)は、端末と回線を別にしようと始めたものです。S、M、Lとプランを作り、端末は別で買うことにした。そもそもの料金体系からして、そういうところがありました。
SIMカードの単体販売は、若干テストのような意味合いもありました。正直言うと、SIMカードのみのマーケットが本当にどうなのかは、まだよく分かっていません。調査、分析する中で、ものすごく数が出ているようにも見えますし、一方ではストックがたまっていない(全体の契約者数がそこまで増えていない)ようにも見えます。
ただ、どんな世界を作りたいかというところからすると、当然の答えでもあります。世の中のインターネットにつながるデバイスは、5台にも6台にも7台にも膨らんでいくことがあると思いますが、そうなったときに、通信機能を提供するのはキャリアだけではありません。いろいろなモノが、いろいろなところから出ていきます。そう思うと、環境を整えていくことが大切です。パケットシェアを始めさせていただくのもそうで、少しずつ将来の姿に向かっている。今すぐにものすごくもうかりそうだからやっているというわけではありません(笑)。
—— 実際、SIMカードのみの販売を始めてみて、反響はいかがでしょうか。
寺尾氏 そこまで驚くほど売れているわけではありません。数で言えば、端末とセットにする方が断然多い。一定量は出ていますが、みなさん、試しているのではないかといった売れ方です。
ちょっと気になるのは端末とセット販売するよりも、解約率が少し高い傾向にあります。とはいえ、まだ始めたばかりですし、店員の方も売り方に慣れていないところはあるのでしょう。
—— MNPなど、一部で「実質価格」が復活していますが。
寺尾氏 割引の仕方だと思っています。MNPでの割引をする中でどうするかで、ああいう形(端末の本体価格ではなく、毎月の通信料が割り引かれる仕組み)になりました。ただ、基本は分離を前提としています。
—— 端末が安価なうちはいいのですが、「Nexus 6」のように、価格が高いと非常に売りにくいのではないでしょうか。
寺尾氏 正直、相当チャレンジングです。Nexus 6については、そもそも6型と画面が大きいですし、iPhone 6 Plusが出る前だとタブレットといってもよかったかもしれません。そして、もちろん莫大な数が売れるモデルではないとも思っています。ラインアップで見たときの、幅の1つですね。月2900円で売って、そこに価値を感じられる方が買っていく世界です。
—— とすると、MNP一括0円のようなことはないんですね。
寺尾氏 さすがに、これをタダにすることはできません(笑)。Google Playでも同じような値段が出ているからお分かりになると思いますが、今でもほとんど利益は載っていません。あれが精一杯のお値段です。
端末の値段という意味では、今は、高いものと安いものに、相当な差が出てきました。極端な話、新興国に行けばAndroid Oneの端末が100ドルを切るぐらいの値段で売られています。一方で、高いものは700ドル以上します。このように、相当な値幅が出てくると、今までの売り方だけでは売り切れません。端末代と通信料を分離して、多少のインセンティブが出たとしても適切な価格で売るようにしないといけないと思います。
料金を作らないとプロダクトが付いてこない
—— シェアプランの導入に伴い、タブレットも単体で販売するようになります。これも、そうした戦略の一環なのでしょうか。
寺尾氏 そうですね。ワイモバイルを始めるとき、ヤフーのメンバーも含めてサービスをどんなものにするのか、合宿をしました。その中で出たことですが、これからデバイスはいろいろなものが出てくるので、それに合わせた料金を作っていかなければならない。料金を作ってあげないと、プロダクトが付いてきません。
スマホは1人1人台のデバイスになりますが、その周りにいろいろなものがある世界があった方が面白いですよね。家の中だけで使うデバイスがあってもいいですし、こういうもの(Car Wi-Fiを指し)は車の中に挿しっぱなしにしておきたい。ただ、これを今までのように1回線4000円ですと言われたら、自分でも買えません。
こういう車の中にずっとあって、タブレットなりゲーム機なり、何がつながるか分からないけどオールウェイズオンになっているものがあれば、世界が変わってくるかもしれません。そういう世界を夢見たときに、あるべき料金は1機種に対して4000円というものではありません。
そう考えると、通信という枠とデバイスは、分けていかないと成り立ちません。これはこれ(端末は端末)として値決めして売っていかないと、いい商材も作れなくなってしまいます。
例えば、アメリカには傘に通信が付いて、雨が降りそうだと教えてくれるだけの端末があります。常に通信していて、家を出るときにピカピカ光ってたら持っていけばいいんですね(笑)。そういうものだって、十分ありえると思います。
今までだと、1つ1つに対して全部に契約が必要でした。そこで筋がずれると、一括で20万円付いてきますとなってしまいます。あの世界をやめて、価値のあるものは相応の値段で買っていただきたい。もちろん、高い、安いはお客さんが判断するものですが、なんでもタダがいいということは決してありません。
—— 確かに、今の販売方法だと、端末の価格帯に偏りが出てしまいますし、ちょっと突飛なデバイスを買ってみるのには勇気がいります。
寺尾氏 10年前、PCにWi-Fiが標準搭載されるとは思っていなかったですよね。10年前、Wi-Fiが入っているPCは1万円かそれ以上高かったということもあります。
それと同じように、今、3GやLTEのモジュールを入れたものとそうでないものの値段差が、どんどん小さくなっています。もう何年かすれば、差はほとんどなくなるでしょう。そういうものが世の中に出たとき、僕らの料金もそれに合わせていくべきなんです。
(通信機能がついた電話機やタブレット以外のデバイスを)割賦込みでこっちは350円、こっちは750円とやり始めると、お客さんは差が分からなくなりますし、店員も複雑で料金を理解できなくなりますから。
そういう世界を少しずつ見ながらやっています。そうじゃないと、4番目のキャリアと思われてしまいます。僕らは常に一番前を全力疾走していないと死んでしまいます。とにかく前に進むことが存在意義の会社がくっつきましたから。イー・アクセスには「Pocket WiFi」があり、ウィルコムには「AIR-EDGE」や「だれとでも定額」がありました。あとから(他社が)追いついてきましたが、一番最初にやったのは僕らで、通信の常識を少しずつ変えてきた自負もあります。その意味で、今回の売り方についても、もしかしたら今後、これが常識になるかもしれません。
—— MediaPad M1 8.0は単体販売されるのに、SIMロックがかかっているのは残念だと思いました。
寺尾氏 もともとウィルコム系はSIMロックがかかっていて、イー・モバイル系は周波数も違っていることもあり、SIMロックフリーという流れがありました。僕たちも一緒になったばかりなので……。大きな意思があってこっちはSIMロック、こっちはSIMロックフリーとやっているわけではありません。今後については検討中です。
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