ICの開発を手掛ける米国のPOET Technologiesは、「今後、高性能ICの材料には、シリコンよりもGaAs(ガリウムヒ素)が多く使われるようになるだろう」という見解を示した。POET Technologiesの共同創設者で、同社の主任研究員を務めるGeoff Taylor氏によると、「その予兆は1980年代からみられた」という。Taylor氏は、Bell Labsの研究員を務めた経歴を持つ。
光回路も形成できる
Taylor氏は、「GaAsは、光回路も形成できる上にトランジスタの電気的な性能も高めることができる。この特性を利用すれば、高性能で画期的なICアーキテクチャを実現し、ムーアの法則を今後も持続させることが可能だ」と説明する。
Taylor氏はEE Timesに対して、「シリコンの論理回路は、スイッチング周波数4GHzの壁に直面しているが、GaAsを使えばスイッチング周波数が100GHzのアナログ回路を作ることができる。400GHzを実現できる日もそう遠くはないだろう。当社は、オンチップ光相互接続向けのエミッタとディテクタも製造している」と語った。
同一チップに標準的な論理回路と光回路を集積するには、設計方法の変更が必要になる。そこで、POET TechnologiesはSynopsysと協力して、ハイブリッドな電気光学デバイスの設計に取り組んできた。例えば、光ループを活用した、シリコンよりも帯域幅が大きい超低ジッタの発振器などを開発しているという。POET Technologiesは、電圧を波長としてエンコードする、非常に精密なA-Dコンバータを開発したいと考えている。高精細、高伝送、低消費電力で部品数を抑えた設計を目指す。
GaAsをはじめとするIII-V族半導体は、シリコンに比べて動作電圧が低いことが利点だ。0.3Vの低動作電圧で、1万2000cm2/V・sの高い電子移動度を実現する。
コスト面では、GaAsウエハーはシリコンウエハーよりも高い。だがTaylor氏は、「完全空乏型SOI(FD- SOI:Fully Depeleted Silicon On Insulator)技術を適用した次世代シリコンと比べると、コストはほとんど変わらない」と主張する。
インジウム(In)、ガリウム(Ga)、ヒ素(As)、リン(P)などほとんどのIII-V族半導体は、シリコンよりも電子移動度が高いが、製造面で課題があるため、シリコンに代わる材料として使われてこなかった。
POET Technologiesは、GaAsウエハー上にInGaAs(インジウムガリウムヒ素)を形成することで、基板上にn型とp型の両方のトランジスタを形成する方法を開発した。
p型トランジスタは、InGaAsの歪み量子井戸において、約1900cm2/V・sの正孔移動度を達成した。n型の85002/V・sには及ばないものの、どちらも、シリコンの電子移動度である12002/V・sを上回っている。POET Technologiesは、「将来的に、n型トランジスタの電子移動度を120002/V・sにまで高めて、相補的な高電子移動度トランジスタ(HFET)を使った超高性能デジタル論理回路を実現したい」としている。
Taylor氏は、Bell LabsのIII-V族半導体に関する特許が切れる前の数年間、米国コネティカット大学(University of Connecticut)に勤務していた。Taylor氏は同大学で、ムーアの法則を今後も存続させる相補的な電気/光学(EO)回路の実現を目指した。Bell Labsの研究を再現して発展させ、「POET(Planar Opto Electronic Technology)」と命名した。同技術の特許は現在コネティカット大学が所有し、同大学がPOETの独占ライセンスを有する。
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