先日行われたアップルのスペシャルイベントで「Apple Watch」が発表されました。久々の「One more thing……」と、スクリーンにアップで映し出された腕時計に、胸おどったファンも多いのではないでしょうか。
しかし「写真やマップが見られる」とプレゼンが始まったとき、嫌な予感がしたのも事実。ケヴィン・リンチ氏が「寿司に行きたい」と伝えるために魚の絵を描いたときには、「お、おう……」と反応に困ったものです。
しかしアップルの公式サイトを見ると、基調講演で紹介された機能はごく一部だったことが分かります。しかも(ウェアラブル端末としては)、Apple Watchはかなり女性うけを狙っているようです。
これまでのウェアラブル端末は、いかにもスマートフォンの延長線上にあるような、男性向けのデザインが主流でした。女性向けにカラーリングだけをピンクにしたって、形がゴツいからガジェット感は強いまま。
デザイン性が高いナイキの「Nike+ FuelBand」は、フィットネス関連の限定的な使い方だし、そもそもFuelBand、ソニーの「Smartband Talk」といったリストバンド型は、デザイン面だけを考えれば日常使いには不向きです。
しかしApple Watchは好みはあれど、普段の生活でも使える“ファッションアイテム”らしい仕上がりです。林信行氏の現地リポートによると、ファッション系ジャーナリストにも評判がよかった模様。
アップルはウェアラブル端末を売るにあたり、2013年から2014年にかけてサンローラン元CEO、バーバリー元CEOなど、有名ファッションブランドから次々と人材をスカウトしました。さらにスイスの高級腕時計ブランド「タグ・ホイヤー」からも幹部を獲得しており、Apple Watchをファッション性の高い高級ブランドとしてマーケティングするのは既定路線だったようです。
プレゼンでティム・クック氏が「たった349ドルから」と発言した真意も、競争相手がファッショナブルな高級腕時計ブランドであると位置付けているから。女性は“安い服”は好きでも、”安っぽい服”が好きな人はあまりいないはず。その点でも、高級路線に走ったアップルは女性のハートをつかむのがうまいと感じます。先進的な製品にテクノロジーは不可欠。しかしウェアラブル=身に付ける製品であれば、ファッション性は同じくらい重要なのです。
筆者の視点でも、今回のApple Watchは「かわいい! 絶対ほしい!」とまではいかずとも、「腕時計としてはありじゃない?」という印象。あとはサードパーティ製のアームバンドが増えれば、選べる楽しさが女性にうけそうです。「iPhoneはカバーの種類が豊富だから」という理由でiPhoneにする人がいたのだから、同じ流れになってもおかしくありません。
あとはミランダ・カーのような健康系モデルが「フィットネスに役立ってるわ」とメディアで紹介すれば、デジタルデバイスに疎い女性層にも一気に認知度が広がりそう。
さらには、iPhoneの大型化がApple Watchへのハードルを下げたかもしれません。iPhone 6の画面サイズ4.7型、iPhone 6 Plusは5.5型もあり、特に6 Plusは女性の手には持て余すサイズ。ならばいっそiPhoneはiPadのようにブラウジングやゲームで使い、コミュニケーションは腕時計で手軽に済ますという風に、Apple WatchにiPhoneの子機の役割を担わせるのです。Apple WatchをiPhone 6/iPhone 6 Plusと同時発表した背景にはそうした側面もありそうです。
2015年初頭に発売される初代Apple Watchこそ反応は薄いかもしれませんが、第2世代、第3世代とデザインが洗練され、関連グッズが充実してきたころには、男女問わず大きな広がりを見せるかもしれませんね。そう考えるとアップルは、ガジェットファン以外の層へのアプローチが上手だなあとつくづく感じるのでした。
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