サーモスは、真空断熱技術を活用した各種家庭用品の開発・販売を手掛けるグローバル企業。真空断熱といえば魔法瓶がおなじみだが、サーモスは世界の魔法瓶市場で長くトップクラスのシェアを維持し続けている他、近年では真空保温調理器や携帯マグ、タンブラー、弁当箱など、真空断熱術を応用したさまざまな商品を広く展開している。
既に世界的なトップブランドとして認知されているサーモスだが、真空断熱製品の市場は各メーカーが技術革新とマーケティングにしのぎを削る、極めて競争が激しい世界だ。そのため、シェアやブランドイメージを保つには、常に高い商品開発力が求められる。
そんな厳しい市場環境の中で、常に先進的な商品を世に送り出し続けてきたサーモスの商品開発力を支えているのが、3次元(3D)技術を活用した設計開発だ。同社の設計部門では、PTCの3次元CAD「Pro/ENGINEER」(現「Creo Parametric」)を早くから導入しており、さらにこれに加えて、3Dプリンタも7年前の2006年から運用を開始している。最近、にわかに注目を集めている3Dプリンタだが、これだけ早い時期から実務で活用している例はそう多くない。
サーモスが3Dプリンタを導入したそもそものきっかけについて、同社 開発部 設計課 新商品係 丸山高広氏は次のように説明する。「2006年にPro/ENGINEERを導入した際に、ベンダーから合わせて3Dプリンタの提案も受けたのが直接のきっかけだった。その際、3Dプリンタを使うことで、試作の効率を大幅に上げられるのではないかという期待感があった」。
そこで同社は、Pro/ENGINEERと同時にストラタシスの3Dプリンタ「Dimension SST 768」を導入。早速試作に活用したところ、あっという間に設計現場に定着し、フル稼働するようになった。そこで2008年には、2台目として同じくストラタシス製の「Dimension Elite」を、そして2012年にはObjet社(2012年12月にストラタシスと合併)の「Objet260 Connex」を立て続けに導入し、現在では3台の3Dプリンタを稼働させている。
これら3台はほとんど常にフル稼働しているというから、同社の設計現場でいかに3Dプリンタが重宝されているかが分かる。
試作回数の増加による商品開発力アップを実現
先の丸山氏の言葉通り、サーモスにおける3Dプリンタの用途のほとんどは、試作品の作成が占める。3Dプリンタ導入以前は、試作は全て外部の業者に委託していたが、試作品が出来上がるまでに1週間ほどかかっていた。それが、3Dプリンタによる試作を始めてからは、平均数時間で試作品が完成するようになった。また、試作1件あたりのコストも約5分の1に削減できたという。
これにより、同じ開発期間内でより多くの試作を重ねられるようになったことが、商品開発力の強化に直結していると丸山氏は言う。
「試作1件あたりのスピードが速いので、多様なパターンでの試作・検討ができるようになった。例えば、パーツの組み付けで何か問題が起きた際にも、細かく寸法が異なる試作品を3Dプリンタで幾つも作って、実際に組み付けを試してみることで、迅速に問題を解決できるようになった。開発スケジュールが詰っているときなどには、特に助かっている」。
また、商品デザイナーとの打ち合わせの場においても、さまざまなパターンの試作品を実際に目の前にしながらデザイン検討を行えるようになったことで、無駄な手戻りが減ったという。
「3次元データをPCの画面で見せるだけでは、実物の大きさがなかなか伝わらないことがある。そのため、出来上がった試作品をデザイナーに見せても、『イメージしていたものと違う』という反応が返ってくることがある。しかし、3Dプリンタを使って早い段階から試作品を作り、それを基にデザイナーと検討できることで、認識の食い違いを減らせている」(丸山氏)。
こうしたメリットが設計部門のみならず、同社のデザイン部門やマーケティング部門にも好評で、さまざまなパターンでの試作依頼が設計部門の下に寄せられるという。このように、製品の機能とデザインの両面で多くの試作を繰り返すことで、より使いやすく、かつ魅力的なデザインの商品を市場に投入できるようになったという。
ただ丸山氏は、気軽に試作できてしまうことで、逆に試作以前の検討がおろそかになってしまうのではないかという懸念も抱いていたという。
「3次元CADを使った仮想テストやデジタルモックアップの取り組みが、3Dプリンタの導入で後退してしまうのではないかという懸念もあったが、実際には杞憂に終わった。確かに3Dプリンタによる試作はフル活用されているが、それ以上に3次元CADによる仮想テストも頻繁に行われるようになった。3Dプリンタの導入によって、3次元データの活用全般がより活発になった」(丸山氏)。
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