iPhoneの進化は想定通り、ではiWatch改め「Apple Watch」はどうか?
アップルは9月9日(現地時間)、米カリフォルニア州クパチーノのフリントセンターにて、2サイズになったスマートフォンの「iPhone 6」と「iPhone 6 Plus」、そして同社初の腕時計型ウェアラブルデバイスであるスマートウォッチ「Apple Watch」を発表した。
新型iPhoneの発表は予想通り、期待はずれでもなく、期待以上でもなく、おおよそ想定した仕様に落ち着いた。片手で利用する際に使いやすくなる画面モードを備えるなど、大画面化に配慮した機能は取り入れているが、おおよそ最新スマートフォンとして必要な要素を取り込んだ正常進化だと言える。
一方、事前に“iWatch”の名前でうわさされてきたApple Watchは、今後この分野のリファレンスとなる製品に仕上がっている。いくつか乗り越えるべきテーマはあるが、これまでスマートウォッチが抱えていた問題を洗練された手法で解決しているからだ。
過去にスティーブ・ジョブズ氏がフリントセンターで発表してきた、アップルとテクノロジー業界を変えた製品(30年前に同会場で初代Macintoshを披露した)に肩を並べるとまでは予告できないが、ウェアラブル製品の開発を行ってきたライバルたちには、小さからぬインパクトを与えるに違いない。
これまでになかった“間口が広く、奥が深い”ウェアラブル
“ウェアラブル・デバイス”とひとことで言っても、実に多様な製品があるが、世の中で“定番”と言えるだけの地位を築いている製品はまだ存在しない。もちろん、グーグルの「Google Glass」のように話題性の高いデバイスや、ナイキの「Nike+ FuelBand」のように世界中で人気の製品もあるが、どれもまだ“自分が持つべきデバイス”という感覚まで行き着いていない。
例えば話を単純にするために、活動量計に話を絞ってみよう。
FuelBandは初代、2代目と使ってみたが、いずれもすぐに飽きてしまった。日々の活動を独自の単位に変換し、運動のモチベーションにしようというゲーミフィケーションの一種だが、計測できる情報がシンプルすぎて奥行きがないのだ。
例えば筆者はフィットネスを上げるため水泳に通っているが、FuelBandでは水泳の活動量は測れないし、フィットネスを上げるためのアドバイスをされるわけでもない。単に日々の“なんとなくな動きをなんとなく計測する”だけにとどまっている。だからこそ、独自単位での計測になる。
一方、ジョウボーンの「UP」やフィットビットの「Fitbit」シリーズ。これらは生活をサポートする活動量計として“日常生活のお供”といった製品に仕上げている。アプリの工夫でさまざまなことをしており、日々の生活と密着しているため“飽きる”という感覚はないが、一方で“ハマる”感覚もない。
今後、iPhone 6シリーズに搭載されたM8モーションコプロセッサの活用が進んでいったとき、これらの製品がどれだけ競争力を得られるのだろう? とも思う(それに関する考察は後ほど別途書きたい)。
一方、アディダスが発売している「smart run」というスマートウォッチがある。これは“時計”というには使い道が限定され過ぎているのだが、目的に応じてトレーニングプログラムを作り、心拍計のデータを基にしてリアルタイムに利用者へとアドバイスを送ることができる。プロのサッカーチームをサポートする技術などを応用した、本気印のスポーツ用ウェアラブルだ。普通の時計として使うようなものではないが、奥が深く特定のユーザーにとっては大きな魅力を持つ製品である。
間口が広い製品は機能に関しても浅くなりがちで、逆に深い製品は専門性が高くなり過ぎる。当たり前のことのようだが、名前のように“毎日、身に付ける”製品なのだから、本来はその両方が必要なのだと思う。
そしてApple Watchは、その両方を備えている。
アディダスのスマートウォッチには、緑色LEDで毛細血管を透かして撮像素子で計測。その動きから心拍を測るMioというベンチャーの技術が使われている(アディダスはMioを買収した)。Apple Watchに使われているものが同じか否かは分からないが、見たところ類似する技術であることは間違いなさそうだ。
ティム・クックCEOは、最良のスマートウォッチでありながら、同時にスポーツやフィットネスに対しても最高の機能を提供すると話した。その自信の背景にはiPhoneを通じてクラウドへとつながっていくサービス連動の広がりとともに、心拍計の存在があるのだと思う。
もちろん、Apple Watchをカジュアルに使うのか、それともシリアスなスポーツウォッチとして使うのか、それはユーザー次第であり、アプリケーション次第だ。しかし、そのいずれにも対応できる柔軟性を備えている点がこれまでのスマートウォッチと異なる。アプリケーションを使い分けることによる適応幅が広いのだ。
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