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なぜ、ソフトウェアは著作権で保護されているのか?

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 ITプロフェッショナルにとっての知財関連知識の中でも、「著作権によるソフトウェア(コンピューター・プログラム)の保護に関する理解」はとりわけ重要だ。

 外注先が開発したソフトウェアの著作権は誰に帰属するのか、開発委託に際してどのような契約を行なうべきか、契約違反があった時にはどのような対策がとれるのか等々、正しい理解が無いと思わぬ結果を招きかねない(実際、正しい理解が欠けていたことで問題となり、裁判にまで持ち込まれた事例も存在する)。

 今日では、ソフトウェアが著作権で保護されることは常識となっている。例えば、違法に複製されたソフトウェアの販売や、ネットへのアップロードを行なった人が警察に逮捕されたといったニュースを耳にすることもあるだろう。

 しかし、そもそも、なぜ、ソフトウェアを著作権で守られなければいけないのだろうか? この根本的な問題を考えてみることは、現在の制度の意義と仕組みを理解する上で助けになるだろう。

そもそもなぜソフトウェアを法律で保護しなければならないのか?

 わざわざソフトウェアを法律で保護しなくても、契約、つまり、当事者間の合意だけで意図に反する利用を防げるのではないだろうか、といった点について考えてみよう。

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 民法の基本的考え方のひとつに契約自由の原則がある。個人や法人は、特に法律に反しない限り、当事者の自由な意思に基づいて条件を決定して契約を行なうことができる。例えば、自社で使用するソフトウェアの開発を外注先に委託する時に、同じソフトウェアを他社には提供しない(提供した場合には違約金を支払う)といった条件の契約を結べば、十分なのではないだろうか?

 しかし、契約による縛りは必ずしも強いとは言えない。契約の効果は当事者にしか有効でないからだ。

 仮に自社で使うソフトの違法コピーが蔓延しているのが判明したとする。もし、ソフトウェアが著作権法(あるいはそれに類する法律)で守られていないとすると、取り得る手段は限られている。委託先を契約違反で訴えることはできるかもしれないが、事情を知らない第三者の使用を差し止めることはできない。

 これに対して、著作権は誰に対しても行使できる権利である。

 著作権者の許可無しにソフトウェアをコピーしたり販売したりした者は、著作権侵害となる(もちろん、私的使用目的での複製のように、特別に法律で認められている場合を除く)。デフォルトでは利用禁止、契約により許諾を受けて初めて利用できるというのが著作権の原則なのである。上記の例で言えば、事情を知らない第三者であっても、ソフトの複製を立証できれば、差し止めることができる。

 この意味で著作権は土地の所有権にも似ている。土地の所有者は誰に対しても自分の土地に勝手に入らないことを主張できる。相手が、「勝手にこの土地に入ってはいけないと所有者と契約をした覚えはありません」と弁解しても意味はないだろう。

 専門用語では土地の所有権のように、誰に対しても効力を持つ権利を物権と呼ぶ。著作権は厳密には物権ではないが、物権に近い権利とされている。

 ソフトウェアのような無形財産は、ほぼ制限無しにコピーできる。そして、許可を得ない利用が、気付かないうちにさまざまな場所で行なわれてしまう可能性がある。契約による縛りだけでは十分な保護が行なえず、法律で“物権的な特別な権利を定めて保護する必要”がある。これは、パッケージソフトのように“不特定多数に販売されるプログラム製品”の場合には特に重要だ。

 また、契約違反が民事の世界の話であるのに対して、著作権の故意の侵害は刑事罰の対象になる(これは、警察の捜査対象にもなることを意味する)。企業間の著作権の争いが刑事事件になることはまずない(そうなる前に民事的に解決が図られる)が、一般消費者向けソフトの違法コピーの販売などのケースでは、刑事罰による抑止力が望まれるケースも多いだろう。

ソフトウェアが著作権法で守られている理由

 では、なぜソフトウェアを著作権法で守らなければいけないのか?

 ソフトウェアという知財を適切に保護するためには、契約による当事者間の合意だけでは十分ではなく、物権的な権利による保護必要であることはお分かりいただけたと思う。では、なぜ、著作権法でなければならないのだろうか?

 著作権法は、「文芸」「学術」「美術」「音楽」といったジャンルに属する著作物を保護するための法律である。つまり、本来的には文芸の世界の法律である。なぜ、この法律で工業製品であるソフトウェアを保護しているのだろうか(芸術的なプログラムもあることを否定しないが)。

 著作権法の長い歴史(旧著作権法制定は1899年)の中で、ソフトウェア(プログラム)が保護対象に加わったのは比較的最近(1985年)のことである。文芸の世界の法律である著作権法に工業の世界のソフトウェアを持ち込むことについては大きな議論があった。

 1980年代初頭、IBM産業スパイ事件等を契機としてプログラム保護の法制化が急務となった時、通産省(現経産省)は、特別な法律を作ることでプログラムの保護を行なおうと考えていた。しかし、アメリカからの強い圧力もあり、結局プログラムを著作物のひとつとして扱うことで、著作権法によって保護することとなった。ここでは、既にベルヌ条約によって国際的な保護が確立していた著作権法を利用せざるを得なかったという事情もあったようだ。

 結果的に、現在の著作権法にはプログラムの著作物だけを特別扱いする規定(例えば、必要なバックアップを行なえる規定)が取り込まれ、条文の複雑性が増している。また、50年(場合によっては70年)という著作物の保護期間は、ドッグイヤーのITの世界ではほぼ永遠のようなものであり、期限を有限にする意味が無いのではないかという議論もあるだろう。

 とは言え、この話を今更蒸し返しても意味はないので、プログラムは著作物として著作権法で守られるということを前提として考えていくしかないだろう。

 なお、OSS(オープンソースソフトウェア)も著作権を放棄したわけではなく、著作権による保護を前提としている。この点はちょっと複雑な議論になるのでまた回を改めて説明していく。

 また、ソフトウェアを保護するのは著作権法だけではなく、特許法や不正競争防止法によっても別の局面から保護され得る。この点も回を改めて説明したい。


 次回以降では、ソフトウェア関連契約の理解に必要な「著作権の基本的事項」について解説していく予定だ。

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