2019年の秋、久しぶりに夫婦で海外旅行に出かけることになった東山智彦は、ドイツのフランクフルトへ移動する飛行機の中であるものを購入した。ドイツやオランダ、フランスで使えるスマートフォン用のSIMカードだ。
今や世の中は、クレジットカードやトラベラーズチェックよりも手数料が安いモバイル決済を利用するのが当たり前になっている。海外旅行ならなおさらで、移動中の機内で購入して設定までできるようになった。プリペイドだから、万が一紛失した際の被害も少ないし、海外旅行保険でもカバーできる。
欧州への出張が多い知人によると、EUと日本がオンラインデータの取り扱いに関する法規制を結んでからは、旅行中の行動履歴や街頭カメラのデータを勝手に使われないようにする申請も楽にできるようになったという。
そういえば日本でも、パーソナルデータに関する損害保険が登場したと妻が話していた。大丈夫だとは思うが、念のために機内誌で売っていた「プライバシーバイザー」だけは買っておいたほうがいいかもしれない。カメラの顔画像認識をプロテクトできれば、大きな被害に遭うことはないだろう……。
短期集中連載:「日常」の裏に潜むビッグデータ
- 第1回:データが価値を持つ時代に、“タダ”のサービスなど存在しない
- 第2回:生活は便利に、でもプライバシーは“丸裸”? ビッグデータ活用の光と影
- 第3回:“匿名”のデータからでも、個人を特定されてしまう理由
- 第4回:ビッグデータ時代、法律は“プライバシー”を守ってくれるのか(本記事)
欧州で進む「忘れられる権利」
ビッグデータは日本だけでなく、世界中で活用が進み、新しいビジネスチャンスとして注目されている。国内はもとより、海外から訪れる旅行客のデータも対象となるが、どこまで個人情報保護の対象になるかはあいまいなままだ。近い将来、冒頭のストーリーに出てきた“プライバシーバイザー”のように、データの活用を制限するアイテムが普及する可能性もある。
実際にNII(国立情報学研究所)からは、スマホやメガネ型ウェアラブル機器による盗撮や意図しない写り込みを防ぐ技術「プライバシーバイザー」が発表された(関連記事)。これはカメラの顔認識を失敗させる光を発するメガネ型のデバイスだ。顔認識を失敗させることで、仮に第三者が自分が映り込んだ画像をインターネット上にアップしても、Webの画像検索(ある画像に似た画像を探す検索)などで引っかからないようになる。サイバー空間に限られるが、プライバシーを守るのに一定の効果があるだろう。
データが時間や国境を越えて利用されることを問題視する動きは、欧州では早くも始まっている。自分の個人情報が含まれた過去の新聞記事が、Web検索結果に出てくるのはEU法に反するとして、スペイン人の男性がGoogleを訴えたところ、2014年5月にEUの司法裁判所が「忘れられる権利」を認めた判決を下したのだ。
これはプライバシー保護の観点から、検索サイトを持つ企業(GoogleやYahooなど)が、一定の条件下で個人情報が含まれるコンテンツへのリンクを削除する(検索結果に出てこないようにする)義務である。
判決を受け、GoogleはEUの利用者を対象に、個人情報が含まれたコンテンツを検索結果から削除できる要請を受け付けるサービスを開始した。すると7月までに、約9万人から32万件以上の削除要請があったという。
また、Facebookでもデータの扱いを巡る集団訴訟が起きている。同社のデータ分析チーム(参照リンク)がユーザーデータを無断で利用し、ビッグデータ解析で行動監視ができる利用規約になっていることがEU法に反するとされ、1ユーザーあたり500ユーロ(約6万8000円)の賠償を求められたのだ。訴訟にはすでに1万人以上が参加しており、場合によっては巨額の賠償に発展するとみられている。
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