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“素人集団”が強みに 基幹システムを自社開発するハンズラボ

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「田中克己の『ニッポンのIT企業』」 バックナンバー一覧



 東急ハンズのIT子会社であるハンズラボが、基幹系など自社開発したシステムをクラウドサービスに移行する作業に取り掛かっている。年内に作業を完了するとともに、自社開発の経験を生かして外販に乗り出す。最大の売りは、オーダーメイド型システムを早く、安く作り上げること。得意とする小売業にアプローチする。

業務に精通するITメンバーたち

 2013年4月に設立したばかりのハンズラボには、約30人のエンジニアらがいる。多くは、東急ハンズ社内の公募によって、前身のIT部門に異動してきた20代から60代の社員。彼ら、彼女らは業務に精通するが、ITの専門家ではない。そんなITの素人集団で、2008年からシステムの自社開発を始めた。(関連記事:東急ハンズ、ITソリューション会社「ハンズラボ」設立 クラウド事業にも参入)

ハンズラボの企業ロゴハンズラボの企業ロゴ

 東急ハンズ執行役員・ITコマース部長を兼務する長谷川秀樹社長は「システムの構築方法を教えて、『さあ、作りましょう』と開発に着手した。店舗から引っ張ってきたので、当初はデータ参照くらいのことしかできないだろう、と思っていた。だが、やっているうちに、システムを作れる、と確信した」と嬉しそうに話す。

 それには秘密がある。非常識と思われる開発方法を取り入れたことだ。一般的には、エンドユーザーが「こんな機能が欲しい」と要望を出し、IT部門がシステム要件にまとめて、IT企業に開発を依頼する。ところが、発注側と受注側で何回話し合いをしても、手戻りが発生する。「金額が高い」と思ったり、期待したシステムの開発に予想以上の時間がかかったりし、不満も募る。最大の欠点は、IT化する業務内容がIT企業のSEに正確に伝わっていないことにある。

 ハンズラボの選んだ解決策が自社開発になる。業務を熟知する社内の人材にITを教えるほうが、エンドユーザーが要求するシステムを早く安く実現できる、と判断したからだ。同社の社員はITの素人とはいっても、「売り上げ」や「在庫」という小売業の言葉が何を意味するのか分かっている。IT企業のSEに、業務を詳細に説明する必要がないので、「ここが違う」といったやり取りを繰り返すこともなくなる。逆に、「こうしたほうがいい」と提案もできる。

 それを可能にするため、長谷川社長は「ユニケージ」という開発手法を採用した。UNIX、特にLinux上において、コマンドとシェルスクリプトで開発するもので、「30程度のコマンドを覚えれば、プログラムを記述できる」(長谷川社長)。2008年にアクセンチュアから東急ハンズに転職した同氏が同業他社を訪問した折、ユニケージを知った。長谷川社長はその良さを、ユーザー企業やIT企業に紹介すると、IT技術に詳しくない人は興味を持つのに対して、システム開発の経験を積んできた人は拒否反応を示すそうだ。

請負契約はおかしい

 もう1つ非常識なことがある。1人が要件定義から設計、開発、運用までの全工程を担当することだ。ウォーターフォール型を展開するIT企業は、開発や運用などの役割を分担するが、ハンズラボはインフラのクラウドサービス(Amazon Web Services)まで、担当者1人に責任を持たせる。多くのIT企業は「1人でこなせるスーパーマンのような人材は少ない」とし、「分業は仕方ないこと」と言うだろう。だが、「分業は伝言ゲームになり、(情報が)正確に伝わらない」(長谷川社長)のだという。

 契約方法も変える。「納品物を明確に決める請負契約はおかしい」(長谷川社長)とし、準委任契約にする。ユーザー企業はシステム稼働後に使ってみて初めて問題点を発見し、修正や追加を求めるのに、IT企業は「そこは契約に入っていないので追加料金がいる」などとする。請負契約は結果的に、ユーザー企業とIT企業の対立を生む。「最初から100%納得できるようなシステムを作るのは難しいので、例えば、カットオーバーして半年間は無料で直す」(長谷川社長)。納品はプログラム一式とマニュアルに絞り、ドキュメントを減らす。

 とは言っても、ハンズラボはユーザー企業の要求するシステムをオーダーメイド型で作り上げる。長谷川社長はアクセンチュア時代からパッケージの適用事例を数多く見てきたが、その中には無理にパッケージに合わせたケースもあったという。「既成品が合わないのなら、オーダーメイドで開発する」(長谷川社長)。ユーザー企業もIT企業も分かっていることだが、「コストが高くなり、時間もかかる。スクラッチは不具合も出る」(同)などとオーダーメイド型を避ける。だが、「言葉の意味を理解したエンジニアが担当すれば、早く安く求めるものを作れる」(同)。

 事実、東急ハンズのIT投資は着実に削減してきたという。その社内事例を営業活動に生かすことを考えている。例えば、「こんな風に基幹システムを作り上げた」とプロジェクト物語をブログで発信する。「苦労もしたが、こんなに楽しく仕事をした」と紹介する。いわゆるオウンドメディアである。現在、ショッピングモールや卸機能を持つ小売業の開発プロジェクトに参画するなど、手掛ける案件は増えている。非常識が常識になり、同社のエンジニアもプロに育っている。


一期一会

 42歳になる長谷川社長は「意味のある仕事をしたい」と話す。ITに従事する人たちが喜び、かつITの利用者にメリットを享受できることをいくつか考えている。

 1つは、個人事業主や中小企業のビジネスを支援すること。ECなどのインターネットサービスのノウハウを生かして、例えば、個人の雑貨商立ち上げを応援する。ECサイト構築というIT面に加えて、商品の仕入れや物流までを支援する。もう1つは、学生向けにクラウドサービス(AWS)を安価に提供すること。「多くの学生にクラウドを活用した開発を経験してもらうことで、ITへの興味が増し、当社に入りたいという学生も出てくるだろう」。

 これらはIT業界の構造変革にもつながる。長谷川社長はアクセンチュア時代、小売業のシステム構築や業務改革などのプロジェクトにかかわってきた。そうした中で、期待するシステムが構築できないと、ユーザー企業とIT企業の双方のイライラが募っていく。そんなモヤモヤを取り払うのも、ハンズラボの挑戦である。

「田中克己の『ニッポンのIT企業』」 連載の過去記事はこちらをチェック!


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