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ビッグデータ分析技術で日本が世界をリードする日

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ビッグデータ研究者が説く分析プラットフォーム

 「ビッグデータ分析技術で日本が世界のトップレベルに立てる可能性はある」

 こう語るのは、国立情報学研究所(NII)の宇野毅明教授だ。宇野氏はアルゴリズム理論を専門とし、ビッグデータ分析において独自の手法を追求している気鋭の研究者である。

 その宇野氏が、NIIが8月20日に開いた定期記者懇談会でビッグデータをテーマにプレゼンテーションを行った。冒頭の発言はその中でのものだが、そこに至るビッグデータ分析技術をめぐる話が非常に興味深かったので、ここで取り上げておきたい。

 宇野氏はまず、ビッグデータ研究のイメージとして図1を示した。この図が示しているのは、ビッグデータがクラウドや機械学習などの技術を通して知識・価値になり、それが用途ごとに使われていくという下から上への動きだ。

図1 ビッグデータ研究のイメージ(出典:国立情報学研究所 宇野毅明教授の資料)図1 ビッグデータ研究のイメージ(出典:国立情報学研究所 宇野毅明教授の資料)

 解釈としては、ビッグデータを知識・価値に変える技術がビッグデータ分析プラットフォームで、知識・価値を用途ごとに適用するのが応用技術といえるだろう。

 宇野氏はこの図を示しながら、「ビッグデータに関する話題が大きく広がっているが、ともすれば、ビッグデータはこんなことに使える、という点ばかりが注目されており、それがなぜ使えるのかが、実はよく分かっていないケースも少なくない。その意味でもビッグデータを知識・価値に変える技術がどう適用されているのかを認識しておく必要がある」と指摘した。

 では、どう認識すればよいのか。その例として宇野氏が示したのが、ビッグデータ分析技術の大まかな分類を描いた図2である。図の見方を捕捉しておくと、左側に記されている6つのキーワードはインフラとなるものである。また、右側の図の下側にはデータの種類が記されており、その他は全て手法である。ちなみに統計・検定とシミュレーションの矢印が他とは逆方向になっているが、これらは以前から存在する手法であることを意味している。

 宇野氏によると、この図に描かれている手法の位置や矢印の長さにもそれぞれ意味があるという。例えば機械学習は下から上まで矢印がつながっているが、これは機械学習がビッグデータを知識・価値へ一足飛びに変えられる手法であることを示している。

図2 ビッグデータ分析技術の大まかな分類(出典:国立情報学研究所 宇野毅明教授の資料)図2 ビッグデータ分析技術の大まかな分類(出典:国立情報学研究所 宇野毅明教授の資料)

日本の活路は現場力を生かした人材づくりにあり

 以上のようにビッグデータ分析プラットフォームを説いた宇野氏は、一方で今、ビッグデータ分析技術に最も足りないのは、図1でいう上層部にあたる知識・価値を用途ごとに適用するツールやノウハウ、そして人材だという。

ビッグデータについて語る国立情報学研究所の宇野毅明教授ビッグデータについて語る国立情報学研究所の宇野毅明教授

 とりわけ深刻なのは人材不足のようだ。つまりは、それぞれの業務に精通した人たちは、現場のどこに課題があるかは熟知しているが、ビッグデータから上がってきた知識・価値をその課題にどう適用してよいかが分からない。一方、データ分析の専門家はビッグデータから上がってきた知識・価値の中身を熟知しているものの、それを現場の課題にどう適用すればよいのかが分からない。

 こうしたジレンマを解消すべく、知識・価値をそれぞれの業務に適用してまさしくビジネス価値を生み出す人材が求められている。しかも、そうした人材がいないと、それぞれの業務に適合した知識・価値活用ツールも生まれてこないし、ノウハウも蓄積されるはずがない。人材不足はまさに悪循環の元凶となる。

 だが、宇野氏は、そのジレンマを解消したところに日本の活路があるのではないかという。その根拠となるのが“現場力”の強さだ。同氏は現場力を「自分事として主観的に価値を創出する力」と表現し、「主観を生む現場の強さにおいて日本は世界のトップレベル」と太鼓判を押す。

 つまりは、それぞれの業務に精通した人たちが、ビッグデータから上がってきた知識・価値を現場の課題に適用できるように育成策を施していくべきではないかという考え方だ。その育成策の担い手として、データサイエンティストをもっと増やすことも必要となってくるだろう。

 最後に、宇野氏への質疑応答で敢えて「日本はビッグデータ分析プラットフォームで立ち後れたが、この部分で勢力を盛り返して世界をリードしていけるようにはならないか」と尋ねてみた。すると同氏はこう答えた。

 「ビッグデータを知識・価値に変える技術のところで欧米と正面から競合するのは、もはや得策ではない。ただ、その部分がこの先もずっと分析プラットフォームであるとは限らない。将来的には知識・価値を現場に生かすところが最も重要なプラットフォームになるかもしれない。むしろ日本はプラットフォームをそうシフトさせるべく果敢にチャレンジしていくべきではないか」

 筆者も全く同感である。そうすれば、ビッグデータ分析技術で日本が世界をリードする日が本当にやってくるかもしれない。

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